2011 Fiscal Year Research-status Report
ドイツ統一後のテレビ・映画広告におけるエイズ表象の変化と性規範の関係
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23720092
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
嶋田 由紀 早稲田大学, 総合研究機構, 研究員 (00333138)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 性規範 / 東ドイツ / エイズ表象 / 生政治 / 広告 / 性病 / エイズ予防啓発 / 統一ドイツ |
Research Abstract |
今年度は、1)旧東ドイツの性規範および 2)エイズ表象に関する資料収集を重点的に行った。1)ベルリンとドレスデン市内の図書館をめぐり、雑誌"Das Magazin"を1970年~1995年まで通覧・コピーした。"Das Magazin"は東ドイツ時代唯一の娯楽雑誌で、統一後も旧東ドイツ出身の購読者に支えられて存続している。雑誌には、ピンナップ、性に関するエッセイや読者アンケート結果が豊富に掲載されており、男女関係の理想像や性規範を知るうえで貴重な資料である。当初はドイツ統一年(1990年)までの閲覧を予定していたが、計画を変更して1995年まで通覧した。この作業は、統一前と後の東ドイツの性規範イメージを比較し、イデオロギーの影響を強く受けた当時の性規範を客観的に眺めるために有効であった。次年度では、当該資料のさらなる精読・比較分析を行い、この性規範についてはっきりとした輪郭を得たい。2)歴史博物館(ベルリン)と衛生博物館(ドレスデン)にてエイズを含む性病予防啓発ポスターや衛生器具を閲覧・撮影した。両館とも東西分裂時代の資料を豊富に所蔵しており、東西ドイツおよび統一後のエイズ予防政策を比較検討するための貴重な資料を得ることができた。とりわけ、衛生博物館での資料閲覧の際に性病を専門とする博物館員が同席して資料に関する詳細な情報を与えてくれたこと、旧東ドイツ出身の職員と避妊具・予防具の使用や性規範をめぐる忌憚ない意見交換の機会を持てたことは、本研究にとって大きな収穫であった。また、調査の過程で、次年度に収集するはずだった東西ドイツ時代から統一後に至るまでのエイズ啓発ビデオも入手することができた。収集した文献・映像資料の分析については、次年度に本格的に進めたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
科研費課題を含めた研究全般を円滑に進めるため、2011年4月から滞在地をドイツ(ゲッティンゲン)に移した。しかし、ドイツ側の事情でビザ発給が遅れたため、図書館の入館証が作れず、研究に着手するのが遅れてしまった。研究課題費の交付が例年より遅れ且つ分割支払いになったことを受けて、予定していた調査を年度後半に延期してしまったこともまた遅延の要因となっている。事務的な事由もさることながら、研究の過程で生じた変更も遅延の原因となった。旧東独の雑誌"Das Magazin" が検閲のもとに編集されていたことから、イデオロギーに寄り添って演出される性規範とそこから排除される性(セクシャリティー)を注意深く読み取るために予想以上の精読が要求された。それをより客観的に評価する手段として、統一後の同雑誌の言説から当時の性規範を再発掘することが求められた。よって、1990年以降に発行されたものについての精読も要求され、東独における性規範は未だ成果として発表できる段階には至っていない。東独の性規範分析についてこのような大幅な遅れがある一方で、映像資料収集については当初の予定より大分進んでいる。11月に行ったドレスデン衛生博物館での調査で、東独時代のエイズ啓発映像およびポスター、統一後のエイズ広告映像および視聴者の反応をまとめた資料が高精度のデータの形で閲覧・入手できたため、次年度における映像分析にすぐさま着手できる状況にある。以上の点を総合し、「やや遅れている」と評した。
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Strategy for Future Research Activity |
5月に日本において資料収集および研究協力者との面談を行った後、遅れがちになっていた"Das Magazin"の熟読・分析に今年度の前半を充てる。その成果を8月にアジア・ゲルマニスト会議において発表する。発表では、イデオロギーの強い影響のもと醸成された東ドイツの性規範と、ドイツ統一を通じて資本主義的性規範に接した東ドイツ出身者が懐古的に語る当時の性規範像との「ずれ」について論じられる。この成果に基づいて、9月・10月は、DDRにおけるエイズ政策および統一後のエイズ映像広告について生政治の観点から分析する。この分析結果について、文化社会研究所の定期勉強会およびドイツでの研究会で報告し、社会学的研究手法について助言をいただいたあと、11月に表象文化系学会において口頭発表する。発表では、「ポスター広告では共同体の免疫不全をイメージさせる身体は徹底して排除されたのに対し、なぜ、テレビ・映画広告では一貫して人間の身体映像を採用せざるを得なかったのか」を明らかにする。この解明は、本課題の目的でもある。12月にまでにこれまでの成果を論文にまとめ、3月までにHP上でも総合的成果を公表する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費の主な使用計画は以下の通りである。1.次年度の研究費は主に、国内・海外における学会発表および研究会の参加、昨年度に行った調査の補完のための旅費に充てられる。5月に国内で資料収集および研究協力者との面談を行い、7月にマグデブルク(ドイツ)の研究会に参加する。8月に北京で11月に国内で口頭発表を予定している。12月以降もドイツで研究課題に関する研究会が開催されれば、積極的に参加する。2.研究成果を公開するための経費もまた主な使用目的である。細目として、投稿論文(ドイツ語)のネイティヴチェック、HP作成補助、HP作成上必要なソフトウェアの購入が挙げられる。3.前年度に収集した一次文献を理論的および文化背景から裏付けるための映像・図書資料を購入する。
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