2012 Fiscal Year Annual Research Report
ドイツ統一後のテレビ・映画広告におけるエイズ表象の変化と性規範の関係
Project/Area Number |
23720092
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
嶋田 由紀 早稲田大学, 総合研究機構, 招聘研究員 (00333138)
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Keywords | 東ドイツ / エイズ表象 / 統一ドイツ / 性規範 / 生政治 / テレビ広告 / コンドーム / 裸体運動 |
Research Abstract |
ドイツのテレビ・映画におけるエイズ予防啓発広告は、エイズ感染経路の啓蒙および感染者に対する理解を促すものから感染予防具としてのコンドームの着用を推奨する内容へとドイツ統一を機に変化する。その生政治的意義を旧東西ドイツの性規範との関連を踏まえつつ明らかにすることを目的として本研究は遂行された。 1)旧東ドイツにおいては、裸体文化(FFK)の大衆化にみられるように、裸体そのもの提示に対して寛容であったのに対し、性のメディア表象はポルノグラフィー・ヌード写真などのいわゆる「性の商品化」につながるものとして禁じられていた。そのため、統一後は「旧体制による性の抑圧からの解放」と同意義で性のメディア表象が渇望されたことが、雑誌 "Das Magazin" から読み取れる。このような「解放」という名の「性の真理」への欲望(フーコー)は、エイズ予防啓発を目的としたテレビ・映画広告戦略に有利に作用したと言える。そこであからさまに描写される性的に欲望する男女の身体と性行為に至る前提条件としてのコンドームの着用は、旧東ドイツ出身者にとっては性のメディア表象という「解放」を意味した。 2)他方、この広告は、旧西ドイツ出身者にとって、80年代まで根強く残っていたコンドームを語ることへのタブーからの「解放」を意味した。 3)旧東西ドイツの共通点として、ピルの普及によりバースコントロールが専ら女性に委ねられてきたことが挙げられる。エイズ広告でなされるコンドーム着用のためのプロパガンダは、避妊・予防行為への男性の参加という「変革」を促した。 以上3点が、90年代以降のエイズ広告が性的な記号に溢れた映像であったにもかかわらず、感染予防啓発として承認され、継続的な放映を求められた理由だと考えられる。しかし、これらの解放・変革と引き換えに、人々は性行為という極めて私的な領域までへの生権力の侵入を許すこととなった。
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Research Products
(3 results)