2011 Fiscal Year Research-status Report
メイエルホリドの「新しい演劇」の探究における「越境」の問題
Project/Area Number |
23720093
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
上田 洋子 早稲田大学, 演劇博物館, 研究員 (40505400)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
Keywords | 国際研究者交流 / 異文化交流 / 越境 / 演劇学 / ロシア・アヴァンギャルド / 比較文化 / 近代 / モダニズム |
Research Abstract |
本研究はロシア・アヴァンギャルド演劇の代表的演出家メイエルホリドの「新しい演劇」の探究における「越境」の問題を、(1)日本演劇との関係 (2)視覚芸術との関係の二点を中心に考察するものである。アーカイヴ資料や同時代の逐次刊行物といった言語資料の他、舞台写真や装置図などの視覚資料などを詳細に検討し、演劇と美術や映像などの視覚芸術との間のジャンルの越境を明らかにすることを目指す。 2011年度は、(1)のテーマに関しては早稲田大学演劇博物館演劇映像学連携研究拠点公募研究として「近代日露演劇交流とその文脈」を立ち上げ、演劇博物館所蔵資料「1928年歌舞伎ソ連公演貼込帳」所収のロシア語新聞・雑誌記事の共同翻訳・研究を進めた。また、2012年1月にはその成果を踏まえたシンポジウムを開催し、ロシアの歌舞伎受容におけるメイエルホリドの意義を考察した。また、演劇における異文化接触とアヴァンギャルドのテーマを広げた形で日本統治下満洲における演劇・映画状況を取り上げ、鈴木直子(中国演劇)、上田学(日本映画)と共同で、モスクワ・ミホエルス国際演劇学会においてロシア語の発表を行った。 (2)に関してはa. 現代とのつながり b. 同時代のヨーロッパ芸術史の流れのソ連における継承 をキーワードとして研究を進めた。a の関連では、2011年8月に大阪大学で開催された国際演劇学会大阪大会で現代ロシア演劇におけるビオメハニカに関する発表を行った。また、同じ8月にニューヨーク出張を行い、パフォーミングアーツ図書館などでアメリカにおけるメイエルホリドおよびアヴァンギャルドへのアプローチに関する調査を行った。b に関してはメイエルホリド劇場の養成所で美術史教育を担当していたニコライ・タラブーキンに関する研究を進め、秋のロシア出張での資料収集および10月の日本ロシア文学会全国大会での発表を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画では具体的なテーマとして以下のものを挙げていた。そのうち、当該研究の範囲内としていたものは、a, b, d, e である。a. ロシア・アヴァンギャルド演劇と歌舞伎、b. 鈴木忠志とメイエルホリド、c. 日本近代演劇によるロシア舞台美術の援用、d. メイエルホリドの演出法における視覚芸術の手法(タラブーキンのコンポジション論とメイエルホリドの講義録を中心に)、e. 革命を転換点とする美的モードの変化 ―メイエルホリドとタイーロフを比較しながら、f. ペトログラードの演劇スタジオでの活動の革命後の演劇・美術への広がり。 a に関しては演劇博物館演劇映像学連携研究拠点の共同研究を立ち上げることができ、調査・翻訳・研究共に順調な進捗状況である。2011年10月にモスクワで発行された論集にロシア語で論考を発表し、2012年1月に企画・開催したシンポジウムでも報告を行った。研究計画ではミホエルス国際演劇学会にてこのテーマを扱うロシア語の発表を行う予定であったが、上記の投稿論文ですでに取り上げたため、2012年度に日本語でその後の研究を踏まえた論考を執筆することになる。ミホエルス国際学会では日露の越境というテーマを念頭に、物理的に境を共有していた満洲における演劇・映画の多文化性を論じ、同じテーマの論考を執筆した。b に関しては演劇博物館で予定されていた展示が延期となり、開催の具体的なめどが立っていないため、研究の優先順位を下げた。 テーマd, eに関しては、タラブーキンやクルジジャノフスキイら、西欧モダニズム芸術のラインを固守していた芸術家・芸術史家との関連におけるメイエルホリド演劇の考察と現代への展開の二つの流れの中で捉えて行く形を取り、資料調査・日本語と英語での学会発表・論考執筆を行った。
|
Strategy for Future Research Activity |
2012年度の研究では、これまでの調査・研究を成果物としてまとめることを中心とする。まずはメイエルホリドと日本演劇の問題であるが、1928年歌舞伎ソ連公演と日露演劇に関する研究成果を論考とし、共同研究者らとともに論集の出版、資料とその翻訳の公開を探る。2012年度中に成果物の枠組みを確定し、2013年度の早い時期には発表を実現したい。演劇博物館演劇映像学連携研究拠点では2012年度も日露演劇の越境をテーマとする共同研究「佐野碩と世界演劇」が採択されており、2013年3月に演博で開催予定の佐野碩展に、主にメイエルホリドとの関係の点から協力し、展示という形の研究成果発表を行う。 ジャンルの越境とモダニズムの問題からは、2009-2010年度の科学研究費による研究「シギズムンド・クルジジャノフスキイと世界演劇」の成果を今回の研究の成果と併せて発展させ、翻訳を出版し、論考を執筆。また、演劇の記号論やメイエルホリドおよびロシア・アヴァンギャルドのグロテスクの手法の小説におけるアナロジーについて、ロシア文学翻訳学会にてロシア語で発表する。これをロシア語の論考に発展させ、ロシアの学術誌への投稿を目指す。なお、モダニズムとアヴァンギャルドのジャンル越境の問題は、これまでの研究の中でテーマが広がっていることもあり、次年度以降も発展的な研究を継続していく。タラブーキンとメイエルホリドの問題の論考執筆も2013年度の予定としたい。 11月のミホエルス学会ではこれまでに調査・整理を進めてきた演劇博物館所蔵ロシア演劇資料に関する発表を、日本の近代演劇の資料と比較で行い、日露演劇交流、特に研究計画で挙げたテーマ c の足がかりとする。この学会は演劇の越境に関する情報交換の場となっており、演博の資料を引き続き海外の研究者にアピールし国際研究交流を促したい。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2012年8月25日から28日までロシア、ヤースナヤ・ポリャーナにて開催されるロシア文学翻訳学会にて「シギズムンド・クルジジャノフスキイと言語のグロテスク」を発表。これに併せて8月から9月にかけてロシアでメイエルホリドと日露演劇交流のテーマを中心とする調査を行う。調査地はモスクワ・サンクトペテルブルグとなる予定。(旅費・校閲謝金発生) 2012年11月にモスクワにて開催される国際演劇図書館・アーカイヴ学会にて、演劇博物館所蔵のメイエルホリドおよびロシア演劇資料を用いた発表を行う。モスクワ・ペルミで資料調査。(旅費・校閲謝金発生) 早稲田大学図書館マイクロ資料およびロシアの図書館・アーカイヴなどにおける資料調査の際に複写代が発生。現代の研究成果などを調査するため、図書およびAV資料が発生。消耗品代は主にプリンタインクなどのコンピュータ関連の必需品、および資料整理のためのファイルなどの文具に用いる。
|
Research Products
(6 results)