2011 Fiscal Year Research-status Report
明治大正期の欧米での日本人美術商の活動に関する調査
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23720094
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
山本 真紗子 立命館大学, 衣笠総合研究機構, ポストドクトラルフェロー (70570555)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 美術商 / 京都 / ロンドン / パリ / 池田清助 / 稲田賀太郎 |
Research Abstract |
本研究は明治末期~大正期にかけて、海外に日本美術品を輸出した京都の美術商の、国外での活動を明らかにするものである。調査対象としているのは、池田清助、稲田賀太郎である。池田清助については、その経歴と京都・神戸を中心とした活動をすでに明らかにしている(これまでの研究成果は拙著『唐物屋から美術商へ』に収録した)。稲田は池田の経営した会社の番頭格の人物であるが、経歴や活動はほとんど明らかになっていない。本研究では、これまで明らかでなかった両者の活動、とくに国外での活動を中心に調査をおこなっている。 2011年度は、主に国外(ロンドン・パリ)での資料調査をおこなった。(1)パリ(2011年8月24日~9月3日):フランス国立図書館、装飾芸術博物館資料室:稲田賀太郎が関与した浮世絵展の展覧会カタログ(6冊)と19世紀末のパリの日本人美術商に関する記録(『Annuaire du commerce』)の調査をおこなった。(2)ロンドン(2011年9月3日~9月9日):大英博物館、National Art Library:大英博物館の池田清助・稲田賀太郎からの購入記録、稲賀賀太郎著作(『銘字便覧』・北斎漫画自筆解説書・『工芸資料』英文訳)を閲覧・調査した。 池田清助に関しては、大英博物館の購入記録は確認できたものの、それ以外の情報を得ることはできなかった。一方稲田賀太郎については、大英博物館での雇用に関する情報や、納品した物品の情報などを得ることができた。稲田賀太郎の経歴については、日本国内では資料はほとんど発見することができず、池田家に関する新聞記事のなかに若干紹介される程度である。今回は、稲田が池田家勤務時、退職後の活動、とくに海外での活動の一端を明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在、夏期の在外調査時の収集資料の内容検討を行っている。資料分析の基礎作業として、分析対象部分の翻刻を作成している。とくに稲田自筆の『北斎漫画』解説は、先行研究を踏まえながら内容を確認している。稲田の解説の内容や、稲田の日本美術に関する著作の意義について検討を開始した。日本国内で確認されている『北斎漫画』から、挿絵と解説文の対応をおこない、稲田が参照した版の確定を行っている。 またフランスでの活動については、今回閲覧した浮世絵展のカタログの著者を中心に、稲田をとりまく日本美術愛好家のサークルについて調査をおこなっている。 2011年度の調査で収集した資料の分析は、手書き資料の解読や英文・仏文資料の分析となるため、若干時間がかかってしまっている。また、資料の背景調査として、当時の在英日本人に関する研究などから、池田や稲田と関わった可能性のある人物などの調査をおこなっているが、有益と判断される情報はあまり発見できていない。稲田が活動した当時のパリの日本美術受容について、当時の商工業者名簿である『Annuaire du commerce』を調査した。日本美術・中国美術店の項目が登場する1881年から1901年までの調査をおこなうことができた。マイクロフィルムの一日の閲覧可能本数に制限があることから、今回の調査では稲田が活動したと思われる1907~1915年ごろまで調査がおよばなかった。今後の課題である。 2012年度も海外調査を行う予定であるが、調査対象となるスタンフォード夫妻、とりわけ妻ジェーン・スタンフォードに関しての資料の収集をおこなっている。彼女らの日本での行動や日本(東洋)美術収集は、これまで日本ではほとんど紹介されていないため、基礎的な調査から開始している。また2011年度の調査の成果は本年度夏に民族藝術学会学会誌もしくは美学会学会誌に投稿予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
2011年度の調査で得た資料・情報の内容検討に加え、スタンフォード大学の付属美術館であるCantor Arts Centerでの資料調査を行う。 池田清助家は大正初年ごろに廃業、その際京都美術倶楽部で自家のコレクションの売立をおこなったことを確認しているが、それらとは別に、少なくない数の池田家旧蔵品がスタンフォード大学創設者リーランド・スタンフォード夫妻(ジェーン夫人)により一括購入されていることがわかった。2012年度は、この購入にかかわる記録の調査と、池田コレクションに関する実見調査を行う。現在2012年8月末~9月上旬の約1週間をめどに、Cantor Arts Centerでの資料調査をおこなう(閲覧する資料・日程は同館学芸員と調整中)。同センターでは、池田コレクションに関する小冊子を1987年に発刊しているが、コレクション全体の完全なリストは未作成であるそうで、今回の調査が本格的な調査の第一歩となる。 池田家とスタンフォード夫妻の関係はこれまでほとんどとりあげられることはなかった。池田コレクションがスタンフォード夫人により入手される経緯、池田もしくは池田コレクションがカルフォルニアの日本美術コレクターに与えた影響について検討していきたい。また、池田家がスタンフォード家に所蔵品を売却した後にも、美術品売立に池田の名が見えることから、美術商としての活動は継続もしくは再開されたとも考えられる。このような大正期の池田家の状況に関しても、何らかの示唆を与えるかと期待している。 2012年度は本研究の最終年度であるため、2011年度、2012年度の海外調査の結果を中心に研究成果をまとめる。池田清助、稲田賀太郎それぞれの海外での活動をまとめ、彼らと彼らの提供した日本美術品が、現地(ロンドン・パリ・カルフォルニア)の日本美術愛好や日本美術研究に与えた影響について分析する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
(1)スタンフォード大学Cantor Arts Centerでの資料調査 同センター所蔵の池田コレクションのリストの作成、スタンフォード夫妻と池田との関係を示す資料に関する調査をおこなう。現地までの航空旅行券および交通費、宿泊費、現地での資料複写費等を支出する。2011年度の研究費の残金(約3万円)については、現地調査の日数をできるだけ確保するため、同地での滞在(宿泊)費にあてる。 また、国内の調査では、上記調査の背景・裏付け調査、京都美術倶楽部での資料調査、国会図書館での前田正名文書の閲覧、をおこなう予定である。これらの調査のための書籍購入費、交通費、東京での宿泊費(国会図書館)等を本研究費より支出する。 本年度は本研究の最終年度であるため、調査の成果を学会報告・論文投稿とは別に、報告書として発行する。そのための印刷発行費ならびに発送費を支出する。
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Research Products
(1 results)