2013 Fiscal Year Annual Research Report
『海人の刈藻』を中心とする院政期物語文学研究の開拓
Project/Area Number |
23720099
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
横溝 博 東北大学, 文学研究科, 准教授 (30303449)
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Keywords | 院政期 / 海人の刈藻 / 作り物語 / 歴史物語 / 栄花物語 / 風につれなき / 中世王朝物語 / 引用 |
Research Abstract |
本研究は院政期を代表的する物語である『海人の刈藻』の特質を、同時代的な観点から剔抉することを目的としている。昨年度は院政期の前時代である「藤原頼通の時代」における文藝の趣向が、『海人の刈藻』に色濃く投影されている事実について論考を発表した。その時、あらためて浮上してきた課題が『栄花物語』との関わりである。『栄花物語』は藤原摂関家の全盛期を描く歴史文学の大作である。続篇では藤原頼通の時代と白河院の院政期を描いている。『海人の刈藻』は『無名草子』に「世継をいみじくまねびて」と評されるように、『栄花物語』を摂取した作り物語の嚆矢でもある。そこであらためて『栄花物語』との直接的な影響関係があるという仮説のもと、つぶさに比較検討した結果、これまで漠然と捉えられていた以上に、『栄花物語』固有の表現の摂取がしかと確認できたのである。そのことについては、昨年度に大略、論考で発表したところであるが、今年度ではさらに『海人の刈藻』の影響作である中世王朝物語『風につれなき』に焦点化することで、いわば歴史物語取りといったものが、後代の物語にどのように受け継がれ、展開しているかを検証した。その結果、『風につれなき』における『栄花物語』摂取は、『栄花物語』全編にわたるものであり、『風につれなき』を枠づける手法として大きな意味を持つことが明らかとなった。文体においても同時代の『いはでしのぶ』とは大きく異なることをかつて論じたが、『風につれなき』という作品は『海人の刈藻』と同様に「世継をいみじくまね」た中世王朝物語の代表作として、あらためて評価しなおしていく必要があることを見出した。このことについて『王朝歴史物語氏の構想と展望』(新典社刊、2014年)にて論考を発表し、併せて歴史物語取りの手法について、今後広く探索する必要性を強調するものである。これをもって本研究の総括としたい。
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