2011 Fiscal Year Research-status Report
文学的言説における日中戦争前期〈中国〉表象の多角的研究
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23720103
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
松本 和也 信州大学, 人文学部, 准教授 (50467198)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 従軍記 / 報告文学 / 小田嶽夫 / 芹沢光治良 / 石川淳 / 田中英光 / 太宰治 |
Research Abstract |
研究1年目にあたる平成23年度は、研究計画に即して、先行研究および調査対象資料体(コーパス)の検討から取り組んだ。先行研究については、文学者による従軍記を対象とした主要な研究書、雑誌発表論文に加えて、テーマに関連する資料集等の解説・解題も参照・整理した。その結果として、〈中国〉表象を含む文学的言説について多くの知見を得ると同時に、〈中国〉表象という観点が十分に検討されていないことを確認した。資料体については、現在の所、当初の予定通り、主要総合誌・文芸誌、主要紙を対象とすることとし、今後も必要に応じて追加を検討していくことにする。 また、比較の観点を確保するために、今年度は、林語堂/小田嶽夫監修/小田嶽夫他訳『北京好日』および林語堂/鶴田知也訳『北京の日』を通読し、その日中戦争前期の〈中国〉表象のありかたを検討した。 以上の準備をふまえて、資料体を対象にして1937年の文学的言説を、〈中国〉表象という観点から調査を進めた。 ただし、興味深いケースが、芹沢光治良「菊の花章」(『改造』1937・12)など少数にとどまったので、今後の研究方針を確認・微調整するという目的をもって、(時間軸的に)視野を広げて、石川淳「マルスの歌」(『文学界』1983・1)および田中英光「鍋鶴」(『若草』1939・5)についても分析・検討を行った。特に後者については、その〈中国〉表象が具体的に同時代他作家に影響を与えた事例まで含めて研究を進め、「媒介する/触発される太宰治あるいはモチーフとしての戦場─田中英光「鍋鶴」と太宰治「鴎」」と題して研究会の場で報告を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究1年目にあたる平成23年度の主な課題は、研究を進めていくための初期段階での準備態勢を整えることと、実際に1937年を対象として、調査・分析を試みることであった。 前者については、計画通りに進めることができ、先行研究状況の精査を通じて、本研究テーマの位置づけをより明確にすることも叶った。検討していた資料体についても、各種の目次一覧の参照や、現物にあたることを通じて、今後の見通しも含めて妥当性を確認することができた。 後者については、1937年の文学的言説で、興味深い〈中国〉表象のみられるものが予想より少なかったため、この年次で何かしらまとまった考察をするには至らなかった。それを補うために1938-39年まで視野を広げ、有益なサンプル・ケースをとりあげて研究することができ、次年度以降の研究の進め方についての見通しもたてることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度の成果をふまえつつ、ひきつづき、〈中国〉表象という観点から、年次を追って文学的言説を調査・整理・分析していく。その際、文学的言説についてはデータベースを構築しつつ、そこに描かれた〈中国〉表象の特徴に明らかにしていく。さらに、それらが同時代に与えた影響や、それらの言説に通底する規則などについて、分析を積み重ねていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度以降の研究費については、主に、資料調査のための旅費と関連文献の購入に充てる予定である。〈中国〉表象という限られた視角からではあるが、日中戦争前期については、物量的に多くの資料・書籍にあたった上での整理・分析が研究の鍵となるため、上記のような使用を計画している。
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Research Products
(1 results)