2012 Fiscal Year Research-status Report
文学的言説における日中戦争前期〈中国〉表象の多角的研究
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23720103
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
松本 和也 信州大学, 人文学部, 准教授 (50467198)
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Keywords | 報告文学 |
Research Abstract |
研究2年目にあたる平成24年度は、研究計画に即して、前年度に構築した基礎的な研究方針・調査対象資料体(コーパス)を踏まえた上で、〈中国〉表象を含む文学的言説の調査・研究に取り組んだ。 前年度、研究の見通しをよくするために、視野を広げて1939年を検討対象としたために手薄になった1937年についての調査を完了した。具体的には戦地である〈中国〉をレポートした「報告文学」を興味の中心に据え、ルポルタージュやそれらについての論評を、単行本、研究書、新聞・雑誌記事などから調査し、分析を進めた。切り口としては、『中央公論』特派員となり、『悲風千里』(中央公論社、1937)などを刊行して「時の人」となったった尾崎士郎に照準を合わせて、開戦直後の文学的言説の特徴、ならびに、その中での〈中国〉表象の特徴について、考察を進めた。 また、こうした、日中戦争にわかりやすく関わった文学者・文学的言説を相対化する意味もこめて、もう1つの観測点として「支那通」作家である小田嶽夫にも注目した。というのも、小田は私小説的な作風を信条とする作家なのだが、中国での勤務経験もあり、体験に即して書くことで、ごく自然に〈中国〉というモチーフと関わっており、実際、そうした文脈から1937年に注目作を発表した作家でもある。いつもながらの作品を書きながら、「報告文学」とも称された「泥河」・「さすらひ」については(ともに1937)、当時の〈中国〉表象において、それらがどのような位置をとるものかについて分析を進め、論文化の準備するところまでこぎつけている。 最後に、前年度、その成果を研究会にて報告をした田中英光「鍋鶴」(『若草』1939・5)に関する分析については、さらに調査・分析を加えて、論文化して発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究2年目にあたる平成24年度の主な課題は、前年度に固めた研究方針・研究に即して研究を進め、それらをチェックしながら微調整していくこと、および、実際に1937年に関する調査・分析を試みることであった。 前者については、大きな問題はなく、今後の見通しもよくなってきた。 また、具体的な検討については、1937年から時系列に即して調査していくという当初のプランは、昨年の展開に即して修正をすることとなったが、研究テーマの見通しをよくしてから改めて1937年を調査対象としたことで、これまで見いだせなかった問題系がクリアにみえるようになり、重要な問題領域を設定した上で、研究を進めることが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度・24年度の成果をふまえつつ、ひきつづき、〈中国〉表象という観点から、文学的言説の調査・整理・分析を積み重ねていく。その際、文学的言説についてはデータベースを構築しつつ、そこに描かれた〈中国〉表象の特徴に明らかにしていく。さらに、それらが同時代に与えた影響や、それらの言説に通底する規則などについても考察していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度以降の研究費については、主に、資料調査のための旅費と関連文献の購入に充てる予定である。〈中国〉表象という限られた視角からではあるが、日中戦争前期については、物量的に多くの資料・書籍にあたった上での整理・分析が研究の鍵となるため、上記 のような使用を計画している。
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Research Products
(1 results)