2013 Fiscal Year Research-status Report
文学的言説における日中戦争前期〈中国〉表象の多角的研究
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23720103
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
松本 和也 信州大学, 人文学部, 准教授 (50467198)
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Keywords | 日中戦争 / 報告文学 / 小田嶽夫 / 尾崎士郎 |
Research Abstract |
研究3年目にあたる平成25年度は、研究計画に即して、前年度までの作業成果をふまえつつ、本研究テーマの基本方針に即して、資料体(コーパス)の調査・分析を継続しながら、〈中国〉表象を中心とした文学的言説の調査・研究に取り組んだ。 前年度から継続してきた1937年の日中開戦後の文学場の変動について、2つの核を設けて、研究を進めてきた。1つは、前年度に論文化の準備までこぎ着けていた小田嶽夫をめぐる議論である。小田嶽夫は「支那通」として知られる作家であるが、作風は私小説的である。日中開戦後、一斉に文学者への社会的要求が高まる中、いつもながらの筆致で描かれた「泥河」・「さすらひ」は、上海事変をモチーフとしたゆえもあり、「報告文学」とも称されていく。本研究では、これらの作家・作品が、1937年にどのように位置づけられていたかを検討を窓として、この時期の文学場についての考察を進め、論文化した。 他方、直接戦争に関わった作家として、尾崎士郎にもひきつづき注目している。小田を「裏面」とするなら、尾崎はこの時期の文学場の「表面」で活躍した作家であり、日中開戦後、またたくまに隆盛を見たルポルタージュ(論)に、理論・実作双方で関わった。ここでも、尾崎を窓とすることで、日中戦争遺構の文学場において、文学(者)がどのような言動を期待されていたかについて、検討を進めて、論文化の準備を行った。 今年度は、このように昭和12年度後半の動向を、戦争との距離の遠・近の両面から行った。これ以降の〈中国〉表象の分析にも、寄与するとの見通しから、この時期の重点的な検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究3年目にあたる平成25年度の課題は、これまでの成果・方針に即しながら、通時的な調査・分析を持続的に進めながら、重要度の高いポイントを絞って、各論を積み重ねていくことにある。 前者については、新聞・雑誌ともに、調査は順調に進んでいる。また、調査の過程で、重要性に気づいた雑誌については、新たに資料体(コーパス)に加えた。 また、具体的な検討については、本研究テーマの発端ともいえる、重要な1937年に関する研究を着実に進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23-25年度の成果をふまえつつ、ひきつづき、〈中国〉表象という観点から、文学的言説の調査・整理・分析を積み重ねていく。その際、これまでの偏差を正し新たな知見をもたらしうる媒体については、適宜資料体(コーパス)に加えていく。さらに、それらが同時代に与えた影響や、それらの言説に通底する規則などについても、複数の補助線を引きながら考察していく。
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