2011 Fiscal Year Research-status Report
ポストコロニアル台湾の日本語表象―黄霊芝文学を中心に―
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23720113
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Research Institution | Prefectural University of Hiroshima |
Principal Investigator |
下岡 友加 県立広島大学, 人間文化学部, 准教授 (30548813)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 日本語文学 / 台湾史 / 黄霊芝 |
Research Abstract |
今年度の研究実績としては主に次の三点があげられる。まず第一点目として、黄霊芝の創作方法・彼の文学が持つテーマ性を作品の分析から明らかにした。具体的には、小説「輿論」「仙桃の花」に関する学会発表を、それぞれ日本台湾学会(於早稲田大学)平成23年5月29日、日本台湾学会関西支部研究大会(於関西大学)平成24年1月28日において行った。黄の小説が逆転の構造を共通して持つこと、小説に描かれる素材が台湾独自の文物、植物に基づいており、その特性が生かされるかたちで作品化が行われていること等を明らかにした。次に第二点目として、黄霊芝本人の発言を記録し、公にした。具体的には、平成23年8月28日に黄霊芝自宅にて行ったインタヴューの内容を、「戦後台湾の日本語作家の声 黄霊芝氏インタヴュー(1)」として『県立広島大学人間文化学部紀要』第7号(平成24年2月)に掲載した。このインタヴューを通じて、より直接的なかたちで、黄霊芝の価値観や、様々なジャンルに挑戦する理由などが明白になった。最後に第三点目として、黄霊芝の小説集を日本で公刊するための準備を行った。黄の許可を得て、彼の小説三一編から一〇編を選び、本文データを入力し、注を施した。さらに年譜を作成し、日本の読者に向けての解説も執筆した。これらをすべて合わせて『黄霊芝傑作小説選』(仮題)を来年度中には公刊する予定である。この書の公刊により、黄霊芝はより多くの読者を得るはずであり、また研究もより進展していくことが予測される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画調書に記した「研究目的」三点のうち、二点目までが既に成果を上げているため、本研究はおおむね順調に進展していると考える。具体的には「黄霊芝文学のテーマ、それを支える方法を明らかにする」「黄霊芝自身の肉声を記録し、彼の立場や意図したことを明らかにする」という二点がこれまでに順調に進められている。さらに加えて本研究は、黄霊芝小説選の刊行準備も行っており、日本文学・日本語文学・台湾史・台湾文学の研究上、有用な基礎資料が提供されるという点から見ても、研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究を引き継ぎ、以下の三点から研究を推進していく。1、黄霊芝の創作方法、彼の文学テーマを作品分析から明らかにし、成果をまとめる。2、黄霊芝本人の肉声を記録し、公にする。3、ポストコロニアル研究の蓄積と接続し、黄霊芝の文学営為の位置づけをはかる。1と2についてはこれまでの研究において明らかになっている点、明らかになっていない点を分別し、不明な点の解明を行っていく。3については、植民地期を経て、ポストコロニアルの状況下に置かれた世界各地の文学状況、文学営為、作家との比較検討作業が新たに必要となる。歴史や言語、文化人類学等、各関連分野の最新の研究成果を吸収しながら、作業をすすめていく。日本近代の作家と黄霊芝の比較もあわせて行い、黄の文学の特性をより浮き彫りにしていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費使用項目の主たるものとして、黄霊芝インタヴューのための旅費、研究成果発表のための旅費、インタヴュー内容の活字化に必要な人件費・物品費、ポストコロニアル文学研究関連図書の購入費を予定している。
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