2012 Fiscal Year Research-status Report
ポストコロニアル台湾の日本語表象―黄霊芝文学を中心に―
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23720113
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Research Institution | Prefectural University of Hiroshima |
Principal Investigator |
下岡 友加 県立広島大学, 人間文化学部, 准教授 (30548813)
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Keywords | 日本語文学 / 台湾史 / 黄霊芝 |
Research Abstract |
今年度の研究実績としては、主に次の三点があげられる。 まず第一点目として、黄霊芝の日本語小説選集を刊行した。戦後の台湾で日本語による創作を行う作家として、黄霊芝の名は一部に知られているが、実際にはその作品を日本で読むことはこれまで難しかった。研究者は黄の承諾を得て、彼の小説十編と書き下ろし評論一編を加えて、『戦後台湾の日本語文学 黄霊芝小説選』(渓水社)を出版した。この書の刊行によって、黄霊芝という作家の力量をより広く知らしめ、その内実を客観的にはかる材料を提供しえたと考える。年譜と解説を作成し、各小説には注を施した。 次に第二点目として、黄霊芝本人の発言を記録し、公にした。具体的には平成24年5月20日に黄霊芝自宅にて行ったインタヴュー内容を、「戦後台湾の日本語作家の声 黄霊芝インタヴュー(2)」として『県立広島大学人間文化学部紀要』第8号(平成25年2月)に掲載した。インタヴューを通じて、黄霊芝と大正期の日本の大衆文学との関わりや、俳句と彫刻を通じるものとして捉える、彼の芸術観の一端が明らかになった。その他の期日にもインタヴューを実施しており、追って内容を活字としていく。 最後に第三点として、黄霊芝の創作方法に関する考察を小説の分析や日本の近代作家との比較によって行った。これまでの研究に加えて、より黄霊芝の独自性が明らかになったと考えられる。具体的には、次のような口頭発表と論文を公にした。「芥川龍之介と黄霊芝」台湾日本語文学会例会(於台湾・大葉大学)2012年4月 21日、「黄霊芝の日本語文芸並びにその周辺」日本台湾学会台北定例研究会(於台湾・台北教育大学)2012年9月8日、「黄霊芝「輿論」考」東呉大学日本語文学系読書会(於台湾・東呉大学)2012年9月12日、「一九五一年の台湾表象―黄霊芝の日本語小説「輿論」―」『近代文学試論』2012年12月、第50号。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画書に記した「研究目的」三点のうち、二点目までが既に成果を上げており、かつ三点目についても口頭発表を行っており、本研究はおおむね順調に進展していると考える。具体的には、「黄霊芝文学のテーマ、それを支える方法を明らかにする」「黄霊芝自身の肉声を記録し、彼の立場や意図したことを明らかにする」という二点が、口頭発表及び論文として公にされた。また、黄霊芝の小説選集も刊行し、彼の文学を日本文学・日本語文学・台湾史・台湾文学の研究上で、有用な基礎資料として提供し得た。さらに、目的の第三点目「ポストコロニアルの研究成果と接続し、黄霊芝の文学営為の位置づけをはかる」という考察の初期段階に入っており、研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究を引き継ぎ、以下の三点から研究を推進していく。 1、黄霊芝の創作方法、彼の文学テーマを作品分析から明らかにし、成果をまとめる。 2、黄霊芝本人の肉声を記録し、公にする。 3、ポストコロニアル研究の蓄積と接続し、黄霊芝の文学営為の位置づけをはかる。 1と2については、これまでの研究において明らかになっている点、明らかになっていない点を分別し、不明な点の解明や補論を行っていく。3については、一部口頭発表を行っているが、さらに考察をすすめて、ポストコロニアルの状況下に置かれた世界各地の文学状況との比較検討を行っていく。日本近代作家、台湾の日本語作家との比較考察も行い、黄の文学の特性をより鮮明にしていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費使用項目の主たるものとして、黄霊芝インタヴューのための旅費や、研究成果発表のための旅費、インタヴュー内容の活字化に必要な人件費・物品費、ポストコロニアル文学研究や黄霊芝との比較対象となる作家の関連図書の購入費を予定している。
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