2012 Fiscal Year Research-status Report
神田本を中心とした『太平記』の生成と表現世界に関する研究
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23720115
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Research Institution | Asia University |
Principal Investigator |
和田 琢磨 亜細亜大学, 経営学部, 准教授 (40366993)
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Keywords | 太平記 / 太平記絵巻 / 太平記の享受 |
Research Abstract |
本年度は、①『太平記』の叙述の分析から作品の特徴を抽出すること、②『太平記』の享受の問題、③学位申請論文の執筆、の三点を中心に研究を進めた。 ①の成果は、「『太平記』「序」の機能」(「日本文学」61-7)に発表した。この論では、従来見過ごされてきた論文にも目を配りながら「序」の研究史を丁寧にまとめ、その上で「序」が作品の中で現世を映し出す役割を果たしてるという新視点を提示した。 ②は、これまで注目されてこなかった『楠公一代絵巻』を翻刻し、この絵巻が『太平記秘伝理尽抄』の影響も受けた、従来知られている『太平記』絵巻とは性格の異なる作品であること、「元禄八年」という半ば通説化していた成立年次は再考すべきであること等を、実証的検証から明らかにした。この成果は、「翻刻 楠妣庵観音寺蔵『楠公一代絵巻』上巻/下巻」(「亜細亜大学学術文化紀要」21/22)に発表した。その他に、「「太平記」を纏う物語の展開―実録『慶安太平記』を軸として―」(『もう一つの古典知』勉誠出版)において、近世文学を代表する実録小説『慶安太平記』の検討から、この作品が『太平記秘伝理尽抄』を踏まえて作品世界を形成していることや、『慶安太平記』をパロディ化した作品『太平気』についても取り上げ、近世社会における『太平記』の多様な享受の様相について明らかにした。③は、これまでの成果を踏まえて、20本の論考をまとめたものである。「『太平記』生成と作品世界」と題し、早稲田大学に提出した。 すなわち、今年度は、五本の論考を発表したほか、加能越文庫にも調査に行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
三年目に提出する予定であった学位申請論文を先に作成したことにより、文献調査がやや遅れ気味である。しかしながら、全体としては当初の予定通り進んでいると考えている。 すなわち、『太平記』の表現世界を考える上で無視できない、「序」の問題と各筆の問題について考察し、それぞれ「日本文学」と「文学・語学」という学会査読誌に発表することができた。また、楠妣庵観音寺蔵『楠公一代絵巻』の調査および紹介をすることもでき、今後の研究の基礎的な準備を整えることができた。 以上から、研究はおおむね順調に進んでいると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
神田本の本文研究を中心に行う。東京大学史料編纂所の写真を参照しながら、本文の特徴について考える。また、仁和寺蔵『太平記』の調査も行うほか、神田本の添え状の紹介も行う予定である。 このほかに、昨年度執筆した学位申請論文を公刊したいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度は、①紙焼き写真の購入②調査旅費③画像データの整理④報告書の作成、以上四点を中心に予算を使う予定である。①は、神田本等の重要伝本のほか、『太平記』の挿絵を考察する上で必要な資料類の写真を購入する予定である。②は、京都、神戸、愛知の所蔵先に調査に行くための予算として使用する。③はパソコンやスキャナ等の購入費に用いる。④は今年度末に提出する報告書の作成代、および資料整理のアルバイト代に 用いる。
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Research Products
(5 results)