2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23720119
|
Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
牧野 淳司 明治大学, 文学部, 准教授 (10453961)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | 国文学 / 中世文学 / 唱導 / 寺院資料 / 平家物語 |
Research Abstract |
日本の寺院資料のうち、唱導資料(各種の仏事法会儀礼に関連して作成された文献)の研究を行った。 国立歴史民俗博物館所蔵『転法輪鈔』の翻刻と解題的研究を進めた。それに伴い、国文学研究資料館にある永井義憲氏所蔵『転法輪鈔』のマイクロフィルムの調査を行った。その結果、永井氏所蔵本は水戸彰考館蔵本の写しであること、現在閲覧不能である彰考館本は江戸時代の写本であることを確認した。また、歴博本の第1帖・第3帖と同内容の部分が永井氏所蔵本に含まれることを確認した。本文を検討した結果、永井氏所蔵本は誤写が多く、鎌倉時代写本である歴博本の本文のよさには及ばないが、歴博本の校訂に使用できることが分かった。そこで、歴博本翻刻の際の対校本として採用することにした。解題作成に伴い、歴博本に含まれる表白の内容分析を進めた。特に第1帖に含まれる2篇の表白については、2012年1月に明治大学で開催された第2回明治大学高麗大学校国際学術会議において「仏教儀礼テクストの研究」と題して発表した。夢想を契機に信心を新たにし、それが社会に伝播して影響を与えていく様子が表白から読み取れること、また「伊豆堂供養表白」は分析の結果、伊豆の願成就院建立の際のものであること、これは今後、願成就院に関する基礎資料となることを報告した。 一方で唱導資料と平家物語との関係性について、注釈的研究を進めた。延慶本の巻十二で建礼門院の醜聞が語られる際に、インド・中国・日本における后の密通の事例が列挙されているが、これが唱導世界から生み出されてきた可能性があることを指摘した。これについては、2011年5月に東洋大学で開催された仏教文学会で発表を行った。その際には、いくつかの論点を提示しつつ、唱導資料を研究する意義と可能性について言及した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、各地寺院や文庫に残された唱導資料の全体像を把握すること、活字化されていない資料について解題的研究を付した翻刻を作成して学会に紹介すること、日本中世に生み出された唱導資料の文学史的・文化史的意義を考究しその資料的価値を発信することを目的としている。 唱導資料の紹介に関しては、中世唱導資料の中心となる安居院流唱導資料の中でも、もっとも重要な『転法輪鈔』の解題と翻刻を進めた。『転法輪鈔』は金沢文庫保管本が紹介されているが、歴博本は未だ活字化されておらず、学会で利用されているとは言えない。しかし、歴博本は内容・分量ともに金沢文庫保管本に次ぐものであり、紹介の意義は大きい。今回、解題と翻刻を公にすることで唱導資料の価値がより広く認識されるはずである。成果は平成24年度中には公刊される予定である。 唱導資料の文学史的価値については、平家物語との関連性を中心に研究を進めた。建礼門院関係章段を分析しながら、平家物語が唱導で培われた文化をふんだんに吸収しながら生み出されてきたことを明らかにした。これを含む内容を、仏教文学会で「唱導資料が開く世界」と題して発表したが、同時に唱導資料の可能性について述べたことにより、唱導資料の意義を提示できたと考える。 一方、唱導資料の全貌を把握するために、資料一覧と研究文献目録の作成につとめたが、いまだ一部に留まっている。資料・文献が膨大であることが原因であるが、『転法輪鈔』の解題・翻刻に予想以上に時間を費やしたこともある。
|
Strategy for Future Research Activity |
日本中世の唱導資料の全体像を捉えその意義を考究するために、今後も、〔1〕各地寺院・文庫の唱導資料についての調査・研究、〔2〕既に紹介されている唱導資料の一覧化と研究文献目録の作成、〔3〕特に重要と思われる唱導資料の翻刻と解題、〔4〕平家物語を中心とする中世文学と唱導との関係性に関する注釈的研究、を推進する。 歴博本『転法輪鈔』の解題と翻刻作業が完了した後は、唱導資料一覧と文献目録作成作業を急ぐ。各地寺院・文庫の調査を継続しつつ、その全貌を把握するように努める。その中で、今後翻刻紹介すべき重要な資料を選定していく。同時に、平家物語など中世の文学・文化と唱導との有機的関係について追究していく。唱導が中世文学の土壌の一部を形成していたこと、唱導に着目することで、今では見えにくくなっている中世文化の様子を明らかにしていくことを目指す。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
唱導資料に関する情報と研究文献を収集するために、日本中世宗教関係図書を購入する。物品費は主に図書購入費として使用する。合わせて、日本中世文学関係図書、日本中世史(寺院史)関係図書を購入する。 旅費は、唱導資料調査と研究会参加のために用いる。 その他、資料複写・製本のために研究費を使用する。
|
Research Products
(2 results)