2012 Fiscal Year Research-status Report
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23720119
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
牧野 淳司 明治大学, 文学部, 准教授 (10453961)
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Keywords | 国文学 / 中世文学 / 唱導 / 寺院資料 / 平家物語 |
Research Abstract |
日本の寺院資料のうち、唱導資料(各種の仏事法会儀礼に関連して作成された文献)の研究を行った。 国立歴史民俗博物館所蔵『転法輪鈔』の翻刻と注釈的研究を進めた。2012年1月開催の第2回明治大学高麗大学校国際学術会議で行った報告をもとにして、『転法輪鈔』所収の表白2編「帥大納言隆季持仏堂供養表白」「伊豆堂供養表白」について、より詳細な分析を進め、読解成果を『仏教文学』36・37合併号(2012年4月)に論文「唱導資料が開く世界」として発表した。ここでは、唱導資料研究が持つ意義と可能性についても論じた。具体的には、アジア文学の基層を形成するものとして唱導を捉えることができるということ(これにより「日本文学」を相対化できる)、唱導資料を通して中世文化のカテゴリーを分析できることを主張した。 続けて7月に、軍記・語り物研究会でも『転法輪鈔』に関する研究発表を行った。ここでは、平盛子・若狭局・藤原実定・藤原修範ら、平家物語に登場する人物、もしくは平家ゆかりの人物に関係する表白に分析を加えた。そこには、平家物語に描かれない人間関係が読み取れる一方、平家物語の人物造型の基盤となるような人物像が表白によって形作られていることが確認できた。発表内容は、『軍記と語り物』49号に投稿し、掲載された(2013年3月)。 一方、唱導資料に注目しつつ、延慶本平家物語の建礼門院関係章段(後白河法皇の小原御幸場面)について注釈的研究を進めた。成果は6月に延慶本注釈の会で報告した。 同時に、日本の唱導資料の特質を探るべく、敦煌願文集との比較研究を進めた。これについては9月に行われた第3回明治大学高麗大学校国際学術会議で「唱導文献研究のために」と題して発表した。仏法伝来や無常の表現において、敦煌資料と日本との間で共通性が見えることを指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、各地寺院や文庫に残された唱導資料の全体像を把握すること、活字化されていない資料について解題的研究を付した翻刻を作成して学会に紹介すること、日本中世に生み出された唱導資料の文学史的・文化史的意義を考究しその資料的価値を発信することを目的としている。 唱導資料の紹介に関しては、安居院流唱導資料の基幹部分を構成する『転法輪鈔』の研究を進めた。未だ翻刻のなされていない国立歴史民俗博物館本(合計4帖)の翻刻と解題作業を終えた。諸事情により公刊は遅れているが、翻刻・解題に索引を付した成果が公表される予定である。さらに、『転法輪鈔』収録の表白を詳細に分析した論文を発表することで、日本中世における唱導資料の意義と価値を示すことができた。また、敦煌に残された願文や韓国の祭文など、国外の寺院資料にも目を向け、日本の唱導資料の特質を客観的に捉える試みも始めている。 日本の唱導資料の全貌を把握するために、大須観音真福寺において唱導資料調査を継続して行っている。日本中世の寺院資料をまとめて保存している真福寺の蔵書における唱導資料の全体像を把握することで、日本中世の「知」の体系の中で唱導資料が担った位置を明らかにできる。真福寺以外では金沢文庫保管の称名寺聖教における唱導資料についても情報収集を進めている。唱導資料が多く残された真福寺と金沢文庫保管の聖教を見ることで、その全体像に迫ることができるという手応えを得ている。ただし、醍醐寺や高野山など、その他の寺院に保存される唱導資料も膨大であり、今後、情報と資料の収集につとめていく必要があると認識している。
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Strategy for Future Research Activity |
日本中世の唱導資料の全体像を捉えその意義を考究するために、今後も、〔1〕各地寺院・文庫の唱導資料についての調査・研究、〔2〕すでに紹介されている唱導資料の一覧化と研究文献目録の作成、〔3〕とくに重要と思われる唱導資料の翻刻と解題、〔4〕平家物語を中心とする中世文学と唱導との関係性に関する研究を進めていく。 最終年度、研究をとりまとめていくために、唱導資料一覧と文献目録作成作業に力を入れる。各地寺院・文庫の調査については可能な範囲で行うこととし、調査ができない場合は情報収集に重点を置くこととする。 唱導資料の意義と価値を発信すべく、中世文学と唱導資料との関係性について論じる論文を執筆することを目指す。唱導資料を生み出した寺院文化が中世文学を生み出す基盤であったことを示したい。唱導資料から中世文化の多様な側面を読み取り、その意味を中世文学と関連させながら提示していくこととする。 さらに日本の唱導資料の特質を客観的に見つめていくために、敦煌や韓国の寺院資料にも目を向けて、比較文化的に調査・研究を進めることとする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
唱導資料に関する情報と研究文献を収集するために、日本中世宗教関係図書を購入する。物品費は主に図書購入費として使用する。あわせて、日本中世文学関係図書、日本中世史(寺院史)関係図書を購入する。 旅費は、唱導資料調査と研究会参加のために用いる。 そのほか、資料複写・製本のために研究費を使用する。
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Research Products
(4 results)