2011 Fiscal Year Research-status Report
浮世絵師西川祐信の基礎的研究―上方と江戸の文化交流を中心として―
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23720126
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
石上 阿希 立命館大学, 衣笠総合研究機構, ポストドクトラルフェロー (20516819)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 国際研究者交流 / 国際情報交流 / イギリス:オランダ:フランス:デンマーク / 近世文化史 / データベース / 浮世絵 / 近世文学史 |
Research Abstract |
西川祐信の画業は多岐に亘り、その作品を分析するためには、文学史、美術史、装飾史、風俗史など様々な視点が必要となる。そのため、本研究では様々な分野の研究者と共同研究を行うことで、祐信を立体的に照射することを目指す。2011年12月に国際日本文化センターで「第一回西川祐信研究会」を開催し、5名の研究発表を行った。各テーマは、主に文学史、美術史におけるもので、浮世草子との関連、やまと絵や狩野派との伝統的手法との比較、江戸の浮世絵師へ与えた影響、『徒然草』など古典文学作品の享受などである。本研究会で、多分野の研究者と本研究の意義と問題点を共有できたことは重要である。 個人研究では、主に以下のトピックを扱った。(1)祐信絵本が江戸の春本に与えた影響-祐信の絵本が後続の江戸浮世絵師に与えた影響については、諸学の指摘するところであるが、春本に与えた影響についてはほとんど研究が進められていない。そこで、鈴木春信、北尾重政の作品に着目し、彼らがいかに祐信の図柄を春本に利用していたかを明らかにした。また、古典文学作品を春本に取り入れるという趣向の確立に、祐信絵本が大きく関与していたことも指摘した。(2)「訓蒙図彙」と祐信作品の網羅主義について-祐信の絵本や春本には、あらゆる階層の人々が描かれ、彼らの風俗や習慣、生活が詳細に描き分けられている。網羅主義ともいえるその趣向が、江戸時代の百科事典である様々な「訓蒙図彙」の流れに汲みするものであることを考察した。 また、西川祐信の全作品総合目録の作成及びデータベース化に向け、イギリス・大英博物館、フランス国立図書館、国立国会図書館の他、デンマークやオランダの個人コレクションの調査を行い、作品情報の収集を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
1、西川祐信の作品・作家研究 本年度は、西川祐信が浮世絵師に与えた影響と、同時代の上方出版文化との関連について研究を進め、論文2本、口頭発表3件、また関連する研究についての口頭発表を4件行うことができた。さらに、共同研究として第一回西川祐信研究会を開催し、文学、美術の研究者5名からの研究発表をえた。この共同研究会を実施することで、多角的な研究を進めることが出来た。 また、平成24年度にも研究会を実施し、装飾史、風俗史といった異なる視点から研究を発展させる予定であり、当初の計画以上に進展しているといえる。2、作品目録の作成 本年度は主にヨーロッパでの調査を行った。調査先は、イギリス・大英博物館の他、フランス国立図書館、オランダ国立博物館、デンマークやオランダの個人コレクターなど。これまでに90点の祐信作品を調査し、情報を収集することができた。しかし、日本国内の資料調査が十分に進められず、次年度の課題となった。次年度は国内調査と同時にデータベース構築を進め、計画の進展を図る。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の推進方策は、主に研究成果の発信・共有に重きを置く。 第一に、作品目録のデータベース公開。これまでの研究で調査した約2000点の春画・艶本の情報及び松平進氏の作成した絵本目録(『師宣祐信絵本書誌』1988年)を基に、西川祐信の全作品目録を作成する。次年度は、前期にイギリスでの調査(大英博物館、ヴィクトリア&アルバート美術館、大英図書館など)、後期に日本国内での調査(国立国会図書館、日本浮世絵博物館、関西大学図書館など)調査を行う。その情報を基に作品目録の作成し、データベースとして公開する。 第二に、共同研究会における各発表を論文集として刊行。2012年8月に国際日本文化研究センターにおいて第二回西川祐信研究会を開催する。2011年度の第一回研究会での各発表も含め、全て論文化し、2012年度末に論文集として刊行する。本論文集では、2011年8月にエストニアで開催された13th International Conference of EAJS(European Association for Japanese Studies)で発表した「How Did Nishikawa Sukenobu's Shunpon Depict Various Estate? -A Case Study of IroHiinagata(1711)」を論文化する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費の主な使用計画は以下の三つである。 第一に、イギリス調査費用。2012年4月から7月まで大英博物館を研究拠点として、祐信作品の調査及び大英博物館での春画展準備を進める。3ヶ月の内、1ヶ月を本助成金にて支出し、2ヶ月は他の助成金にて支出。また、11月に展覧会図録の最終確認を行うため大英博物館で作業を行う予定であり、その渡航費用としても使用する。 第二に、第二回西川祐信研究会の開催費用として。2012年8月に国際日本文化研究センターにて研究会を実施する。発表者は5名の予定である。 第三に、論文集の刊行費用として。第一回・第二回の研究会で発表された内容を基に、2012年度末に論文集を刊行する。その印刷費、送付費、図版申請費などとして使用する。 なお、当初購入予定にしていたノートパソコン、スキャナ、プリンタを他の助成金により購入したため、平成23年度の研究費に未使用額が生じたが、24年度にイギリス調査費用査及び論文集の出版費用として用いる。
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