2011 Fiscal Year Research-status Report
〈近代の超克〉論の文学論的効果──論争と同時代作品の協働連関
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23720127
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
内藤 由直 立命館大学, 文学部, 講師 (60516813)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 国文学 / 文学論 / 思想史 / 〈近代の超克〉論 / 国民文学論 |
Research Abstract |
本研究の目的は、1942年および1959年に提起された〈近代の超克〉論とその同時代文学作品を研究対象として、〈近代の超克〉論における文学論としての意義を明らかにしようとするものである。 この目的を達するために、今年度はまず戦中戦後の〈近代の超克〉論と先行する国民文学論(1937年・1952年)との関係を検証し、それらの議論間で連続する文学的係争点を析出することで、〈近代の超克〉論が時局便乗の機会主義的な議論ではなく、時代の必然的要請によって提起された文学論であったことを明らかにしようと試みた。 具体的な作業としては、〈近代の超克〉論に関する一次・二次資料、そして当該議論の影響下で創作されたと考えられる作品群を調査・収集し、これまでに入手した国民文学関連資料と付き合わせて双方の結節点を検証した。その結果、国民文学論が揚棄を試みた「政治と文学」の対立問題が戦中戦後の〈近代の超克〉論の中へも織り込まれていることを確認することができた。これにより、〈近代の超克〉論が既存の研究において評価されてきたような単なる超国家主義的イデオロギーではなく、先行する論争の課題を継続して議論した文学論であることを看取することができた。 「政治と文学」の対立問題は、1920年代のプロレタリア文学運動の時代より絶え間なく議論されてきた問題である。ゆえに、本研究の成果によって、1920年代から50年代の日本近代文学を貫流する問題系の一つとして「政治と文学」の問題を具体的に認識することが可能となり、〈近代の超克〉論を「政治と文学」の対立問題の帰結、あるいはプロレタリア文学運動の帰結として評価することできるようになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は、国内外の関連文献収集を重点的に行い、〈近代の超克〉論と国民文学論および同時代作品との結節点を立証し得る十分な資料を準備することを目標としてきた。国内文献については計画通り、調査・収集作業を実施することができたと評価できるが、海外の文献についての調査・収集作業が若干遅れており、当初計画通りの目標を充分に達成できたとは評価できない状況であると認識している。 研究計画では、文献資料収集に関して、国外文献の調査・収集に多大な時間を必要とすることが予想されるため、資料調査と入手を二年目も継続しなければならない可能性があると想定し、初年度に引き続き資料調査・収集を実施することを予定していた。ゆえに、引き続き文献調査・収集作業を続け、平成24年度の研究計画に支障が出ないように早急に作業を完了したいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究においては、これまでに明らかになった〈近代の超克〉論の文学論的意義が、同時代文学作品の中で具体的にどのように形象化されているかを検証し、その成果を公表していく予定である。また、〈近代の超克〉論に関するワークショップを開催し、〈近代の超克〉論に関する国際的な研究状況を確認するとともに、申請者も研究発表を行い本研究計画が明らかにしようとする〈近代の超克〉論における文学論的意義の妥当性を問うていきたいと考えている。 平成24年度は本研究計画の完了年度であるため、二年間の研究成果を口頭発表および論文執筆の形で公表していく予定である。成果発表に関しては、本テーマの研究動向を踏まえて、できるだけ国外へ向けた成果発信を実施したいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初予定していた関東方面での資料調査および収集作業を予定通り実施することができなかったことに加えて、立命館大学で在外研究を行っている外国人研究員の協力を仰ぎ英語圏の文献を中心に資料収集を行う予定が研究員の帰国のため実施することができなかったことにより23年度研究費に未使用額が生じた。23年度において不十分であった文献調査・収集作業は、24年度計画と並行して実施していく予定であり、繰り越した研究費は前年度計画の継続実施のために用いる。在外研究者とのコンタクトについては、E-mailを活用し密接な連絡を取りながら計画遂行に努めたい。
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