2012 Fiscal Year Annual Research Report
〈近代の超克〉論の文学論的効果──論争と同時代作品の協働連関
Project/Area Number |
23720127
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Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
内藤 由直 龍谷大学, 文学部, 講師 (60516813)
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Keywords | 国文学 / 文学論 / 思想史 / 〈近代の超克〉論 / 国民文学論 |
Research Abstract |
本研究は、1942年及び1959年に提起された〈近代の超克〉論と同時代文学の協働連関を検証し、戦中戦後それぞれの〈近代の超克〉論が当時の文学表現に及ぼした効果を把握しようと試みたものである。 〈近代の超克〉論はこれまで時局に便乗した機会主義的な議論として理解されてきたが、本研究では戦中戦後の〈近代の超克〉論それぞれに先行する国民文学論との結節点を開示することで、〈近代の超克〉論が先行研究によって評価されてきたような単なる超国家主義イデオロギーではなく、昭和文学の中心的課題である「政治と文学」の対立問題を引き受けて議論した文学論であったことを明らかにした。 また、〈近代の超克〉論に内在する上記の文学的係争点が同時代の作品表現と共振する様相を、林房雄『青年の国』(1942年)や貴司山治『維新前夜』(1940-44年)、戦後では山岡荘八『小説太平洋戦争』(1962-71年)の考察を通して明らかにした。 これらの成果は、「〈近代の超克〉論と同時代文学──国民文学論の行方──」(龍谷大学国文学会、2012年6月)、「貴司山治『維新前夜』論──未完の〈近代の超克〉──」(占領開拓期文化研究会、2012年12月)、「貴司山治『維新前夜』と近代の超克 思想戦とアジア解放の幻」(『フェンスレス』2013年3月)として公表した。 本研究成果の意義としては、戦中戦後の国民文学論と〈近代の超克〉論における連続性及び具体的作品との相互交渉を明らかにしたことで、〈近代の超克〉論を文学論として評価する視座を構築できたことが挙げられる。あわせて、〈近代の超克〉論の文学論的役割が鮮明となったことで、超国家主義イデオロギーの側面のみを注視してきた既存の〈近代の超克〉論研究の欠落を補完することができたと考えられる。
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