2012 Fiscal Year Research-status Report
近代英国小説史における作者の身体表象の研究:十八世紀小説を中心に
Project/Area Number |
23720135
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
武田 将明 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (10434177)
|
Keywords | 18世紀イギリス文学 / 近代小説史 / 小説の機能 / 作者表象 / 身体性 |
Research Abstract |
今年度、最も時間を割いたのはGulliver's Travelsに関する研究であった。IASIL Japanの年次大会シンポジウム"To Islands, I: Odysseus, Gulliver, Oisin"では、Gulliver's Travelsが作者であるSwiftとは別にGulliverという語り手を設定することで、如何に効果的に読者を作品の細部に巻き込み、作品と読者、さらには作者との固定した関係に揺さぶりを加えているかを指摘した。また、2013年刊行予定の『「ガリヴァー旅行記」徹底注釈』(服部典之、原田範行との共著。原稿はすべて執筆ずみ)では、複数の箇所でGulliver's Travelsにおける作者の身体表象を考察したが、とりわけSwiftの生前に刊行された本作の様々な版における肖像画を、本研究の視点から詳細に論じることで、既存の研究にはない考察を行うことができた。 また、前年度のRobinson Crusoe研究で興味を抱いた、本作のダイジェスト版や、ヨーロッパで刊行されたいわゆるRobinsonade(ロビンソン物語)について考察を深め、日本ヘルダー学会のシンポジウム「18世紀における〈ロビンソン物語〉」で成果を発表した。 また、9月にロンドンに滞在し、主にGulliver's TravelsとDefoeのJournal of the Plague Yearに関する調査を遂行した。文献調査はもちろんのこと、Journal of the Plague Yearで描かれたロンドンにおけるペスト流行の過程を、現地を歩くことで確認し、本作の記述のリアルさを再確認した。その成果は、飯田橋文学会での口頭発表「デフォー『ペストの記憶』とロンドン」で示した。 なお、平野啓一郎『ドーン』の文庫解説をはじめ、日本の現代文学についても本研究を踏まえて論じた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の最大の目標であったGulliver's Travelsに関する研究は計画通り進み、刊行こそ間に合わなかったが『「ガリヴァー旅行記」徹底注釈』という形で成果をまとめることができた。なお、本書は共著であるが、私の執筆箇所だけでも400字詰め原稿用紙換算で600頁以上になる。 また、計画書ではイギリスの小説起源論を扱いながら、RichardsonとFieldingについて研究すると述べたが、この方面の研究成果は9月に高知大学で行った集中講義「小説の機能」で発表した。作者の身体表象という本研究の視点を生かしつつ、とりわけFieldingのTom Jonesがいかに19世紀小説を準備したかという問題について、既存の文学史とは異なる観点で考察したつもりである。しかし、上記の著作の執筆の都合もあって、いまだ学会での口頭発表や研究論文の発表には至っていないため、次年度の課題としたい。 また、研究計画では触れていないが、前年度のRobinson Crusoe研究を踏まえていわゆるRobinsonadeやDefoeの別の著作であるJournal of the Plague Yearについても考察を深めることができた。これも成果発表はいまだ比較的小さな研究会での口頭発表のみなので、次年度に論考にまとめたい。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究から、Robinson CrusoeやGulliver's Travelsの作者が自らの身体を半ばさらけ出しつつ、半ば隠蔽したのは、近代文学としての小説が、既存の散文文学を更新するジャンルとして台頭する過程で不可欠のものだったのではないか、という見解を抱くようになった。この問題は、18世紀の一人称小説における語り手(主人公)と作者との複雑な関係から示せるように思われる。今年度は、「現在までの達成度」の欄にも記した前年度の積み残しを解消しながら、同時にこの新しい視点を生かした論考を発表したい。また、計画書では平成25年度に19世紀のAustenとScotを研究し、26年度に18世紀に戻ってSterneを研究すると述べたが、これまでの研究を生かすことを考えると、むしろ25年度は18世紀の一人称小説の極北であるSterneの作品について考察し、26年度にAusten、Scottに始まる19世紀小説の問題を考えるのがよいと思われる。また、計画書では触れていないが、Sterneと同時代に活躍した作家Tobias Smollettの作品を昨年度に読んだところ、身体性に関する鋭い感覚を示しており、また作者と読者との関係についても(一見すると無自覚であるが)実はよく考えていたことが分かったので、Sterne研究と絡めてSmollettについても研究成果を発表できればと考えている。 今年度も、8月~9月にイギリスあるいは必要に応じてアメリカの図書館に赴き、文献調査を遂行したい。Sterne研究では、近年Thomas Keymerなどの論考によって、忘れられた同時代の文学作品との影響関係への注目が高まっている。この傾向を踏まえた調査を行うつもりである。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
8月~9月にイギリスあるいは必要に応じてアメリカの図書館に赴き、文献調査を遂行する。また、Sterneの全集、Swiftの新全集、Swiftの友人Bolingbrokeの未刊行書簡集、さらにはRihchardson, Fielding, Austen, Scottの最新版の全集(のうち、手に入れていないもの)を購入したい。また、本研究で得られた知見をイギリス文学の分析に留めることなく、近代の日本文学の分析にも適用できるかどうか時間を取れれば検討したいので、この関係の著作の購入に研究費を充てる可能性もある。
|
Research Products
(9 results)