2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23720139
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
中川 千帆 奈良女子大学, 研究院人文科学系, 准教授 (70452026)
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Keywords | 心霊主義 / 世紀転換期 / シェーカー教徒 / 科学技術 / 霊媒 / 自己 / 異性愛規範 |
Research Abstract |
25年度は、再度、心霊主義と20世紀転換期のアメリカ文化との関わりを様々な角度から検証した結果、心霊主義と共通する、現代社会にもみられる女性の自己の問題にも同時に考察を深めることとなった。 今年度の実績の一つは、24年度の終わりにNineteenth Century Studiesの学会で発表したW.D.HowellsとHenry Jamesの霊媒に関する小説を、シェイカー教徒の持つ意味により重点を置いて検証し直したことである。それもまた24年度にシェイカー教徒の共同体を保存した歴史博物館を訪問してリサーチを深めたことにより、具体的なイメージをつかむことができ、より正確な理解を得られたこと、そして特にHowellsにとってのシェイカー教徒の意味をよりはっきりと捉えられたことが大きく寄与している。 また、心霊主義と当時の科学との関係について踏み込んだのが、学会発表と論文発表を行ったHamlin Garlandの霊媒に関する小説の研究である。当時のアメリカの電話流通事情とテクノロジーの発展が社会に対して持つ意味、ひいては家父長制社会において持つ意味を、霊媒の女性と家族との関係について検証した。当時の科学技術の発展と社会への影響についてはよく議論されているところであるが、霊媒と文明、家族、精神分析との関係を見出したこの研究は、独自の視点を提示することができたといえるだろう。 また、付随的に発生した研究として、科学技術による自己の操作をテーマとしているという点で霊媒のイメージと共通点の多い、現代アメリカのTVドラマ作品『Dollhouse』についても論文発表を行った。この研究は、20世紀転換期に顕著にみられた問題意識が現代にも共通することを指摘するものであり、当時の心霊主義と科学技術の発展を背景にしたSF作品『未来のイヴ』と現代のSFテレビ作品の比較考察を行うものである。これは、さらに女性の自己を考える点でより大きな問題意識へと拡大することができるものだと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究を始める前の見通しでは、病と医療を重点的に研究する予定であったが、実際に研究を始めてみると先行研究の少ない心霊主義を取り上げた小説に関する研究に多くの時間を費やすこととなった。しかし、病と癒しに関する重要な研究の一つであるChristian Scienceの研究に踏み込む上で、非常に重要なステップとなっているといえ、順当な展開であったと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、より「病と癒し」に関する部分に焦点を当てることになる。まず一つは、Edith Whartonの作品と当時のアメリカ国内に流行していたneurastheniaを、Christian Science、特に、創始者のMary Baker Eddyの伝記を手がかりとして理解する試みを行うつもりである。Eddyは、当時の病、ジェンダー、医療、宗教、心霊主義すべてに関わる鍵となる人物であると考えている。Whartonのもっとも荒涼とした作品といえるEthan Fromeを読み解くうえで、そしてまた、アメリカの身体と心理を考える上で大きな意味を持つ研究となると考えており、学会での発表を計画している。 また、もう一つの研究課題となるのは、医師であったOliver Wendell Holmesの"medicated novels"と呼ばれる三作品である。彼の三作品は、遺伝と精神病、道徳、宗教、生物学的な要因に考察を巡らせたものであり、医師であり文学者であった彼の人間理解とその分類の試みであったということができる。このHolmesの人間理解には、ジェンダー的視点を用いることでより現代的な洞察を得ることができるであろう。またそこから精神病を病む女性患者たちと、精神病であることを疑われた霊媒たちの自己の理解との比較考察を行い、霊媒と精神病理解が女性の自己を巡って交錯していることを明らかにするつもりである。この研究も国際学会で発表することを計画しているところである。
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Research Products
(5 results)