2011 Fiscal Year Research-status Report
翻訳研究(トランスレーション・スタディーズ)のアプローチによる英米文学受容研究
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23720144
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Research Institution | Sapporo University |
Principal Investigator |
佐藤 美希 札幌大学, 外国語学部, 准教授 (50507209)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | トランスレーション・スタディーズ / 翻訳研究 / 翻訳文学 / 英米文学 / 英米文学受容 / 円本 |
Research Abstract |
平成23年度は、トランスレーション・スタディーズのアプローチにおける翻訳のコンテクストに着目する視点に立ち、大正末から昭和初期にかけて出版されてブームとなった、いわゆる「円本」における英米文学翻訳の考察を進めた。特に、改造社『現代日本文学全集』『世界大衆文学全集』・新潮社『世界文学全集』・近代社『世界戯曲全集』・第一書房『近代劇全集』を中心に、その新聞広告や月報に掲載された文学論や翻訳論を言説資料として用いた。 この分析を通して、当時一大ブームとなっていた「円本」が英米文学にどのような翻訳受容をもたらしたのか、またその背後にある志向について、一定程度の整理を行い、次の点を明らかにした。「円本」が一般読者の文学受容を拡大したことは事実であるが、外国文学の「円本」においては、実際には一般読者の興味・関心を第一義的に重視したわけではなく、明治後半から大正期にかけて確立されていた学問的な文学受容態度や大衆をそれによって啓蒙しようとする姿勢が、月報や広告に現れた文学論や翻訳論には明らかに書き込まれている。 この分析について英米文学と翻訳研究の学会で研究発表・シンポジウム発表を行い、両分野の視点から有益なフィードバックを得ることができた。また、今年度の二つの国際学会にも応募して既に発表採択済みである。 今年度はさらに「円本」前後の英米文学翻訳受容との比較へと考察を拡大する予定である。大正・昭和前半における翻訳による英米文学受容の全体像の把握につなげていく上で、受容の意識と状況の転換点と推測できる「円本」の翻訳受容を考察したのは一つの重要な成果と考えており、今後の研究に向けた基礎となるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、翻訳研究(トランスレーション・スタディーズ)の視座から英米文学研究にアプローチし、翻訳のコンテクストとの関連という新たな視点から日本独自の英米文学の翻訳受容を再検討することを目的としている。その一例として、大正~昭和前半の時期を取り上げ、当時の翻訳受容の整理と翻訳出版のコンテクストおよびその背後にある英米文学翻訳観を分析するものである。 平成25年度に研究成果全体を論文としてまとめるために、当初は23年度を大正期、24年度を昭和前半と便宜的に通時的考察を計画していたが、この時期の転換点と推測できる昭和初期の「円本」をめぐる状況を先に考察し、次にその前後の時期との比較考察を通じて分析を拡大するように計画を修正した。このように研究の推進手順は多少変更したものの、大正~昭和前半の翻訳受容史の整理と翻訳のコンテクストや翻訳観の分析から逸脱するものではない。この計画修正にしたがって、23年度は「円本」出版時期についての考察を概ね順調に進められた。さらに詳細を詰める必要のある部分はあるが、24年度に「円本」前後の時期との比較考察を行う予定であり、その中で詳細な分析を付加することも可能だと考えている。したがって、現在のところ計画からの大きな遅れはないと認識している。
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Strategy for Future Research Activity |
23年度にすすめた外国文学の「円本」に見られる当時の翻訳受容コンテクストとその背後にある英米文学や翻訳に関する志向の考察を元に、24年度はそれと前後する時期の翻訳観や文学観を分析し、「円本」出版時期のそれと比較考察する。 具体的には、円本出版以前・以後の文学研究系の雑誌などの資料や文献を分析対象とし、そこに現れる翻訳と英米文学受容に関する言説を考察し、「円本」に見られる翻訳意識や文学受容の意識が一つの転換点であったという仮説を精査する。 研究の進捗状況に合わせて学会発表を行う。既に、国内の文学研究系の学会でのシンポジウムと、トランスレーション・スタディーズの国際学会で2度、それぞれの発表が決定している。文学研究・翻訳研究両方の分野で研究へのフィードバックを得られる機会であり、それを元にさらなる考察の深化をはかりたい。24年度に学会発表を集中することで、25年度は論文作成に集中することを念頭に置いている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
23年度には予定していた国際学会参加を見送ったが、その分24年度に、上述の通り少なくとも2度の国際学会での発表が決まっている。また、当初は予定していなかった国内学会のシンポジウムへの参加も新たに決定した。こうした研究発表を通じて研究内容へのフィードバックを得られる機会を随時設けるようにすることで、研究内容の深化をはかりたい。そのため研究旅費を当初予定よりも多く必要とすることになった。 24年度に学会発表を集中することで、25年度の成果発表は研究論文を主に進めることができると考えている。そのため、研究旅費の金額を当初予定よりも減額できる見込みである。 研究書籍や資料の購入(消耗品費)、外国語論文校閲料金(謝金)、資料複写(その他)などは、当初の予定通りの予算執行を考えている。
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