2012 Fiscal Year Research-status Report
翻訳研究(トランスレーション・スタディーズ)のアプローチによる英米文学受容研究
Project/Area Number |
23720144
|
Research Institution | Sapporo University |
Principal Investigator |
佐藤 美希 札幌大学, 外国語学部, 准教授 (50507209)
|
Keywords | トランスレーション・スタディーズ / 翻訳研究 / 翻訳文学 / 英米文学 / 英米文学受容 / 円本 |
Research Abstract |
平成24年度は、23年度に引き続き、大正末期から昭和にかけて出版された外国文学の円本全集およびその周辺言説資料を中心に、英米文学の翻訳と受容をめぐる翻訳論や文学論、出版論などについて考察を深めた。また、当時の文学傾向、文化状況、社会状況との関連についても分析を進めた。こうした円本をめぐる考察の深化に拘った理由の一つとして、近年研究が活発になされている「世界文学」と、円本全集が外国文学を(主として西洋文学のみであるにもかかわらず)「世界文学」と名付けていたこととの偶然性がある。翻訳を重要な要素と捉える「世界文学」の研究視座とも接合することによって、日本の英文学受容と翻訳の関係を再検討している。これらの考察は、トランスレーション・スタディーズと日本研究それぞれの国際学会、テクスト受容を扱う国内学会でそれぞれ研究発表を行い、これまでの成果を問うた。 トランスレーション・スタディーズの国際学会では、翻訳言説を用いた記述的翻訳研究という方法論から、外国文学観、翻訳観、文学傾向、社会文化状況の関連性を明らかにする研究発表を行った。これに対して同分野の研究者達から専門的な質疑や助言を得た。それをもとに、トランスレーション・スタディーズと外在批評的な文学研究の視座をより効果的に繋ぎ合わせ、日本研究の国際学会では大衆による英文学受容がどのように牽引されたのかに力点を当てた研究発表を行った。こちらについては、文学、特に世界文学の観点から多くのコメントや助言を得ることができた。また、テクスト研究学会における文学受容のシンポジウムでも、日本の文学研究とトランスレーション・スタディーズの視座を接合する意義と、それにもとづいて英文学受容を翻訳テクスト出版の観点から分析する発表を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、翻訳研究(トランスレーション・スタディーズ)の視座から英米文学研究にアプローチするものである。考察対象を大正から昭和初期に設定し、当時の翻訳のコンテクストとの関連という新たな視点から日本独自の英米文学の翻訳受容を再検討するとともに、日本の英米文学研究の視座拡大の一助となることを目指すものである。 23年度に若干計画修正を行い、大正末~昭和初期の外国文学の円本全集の考察を中心に翻訳受容の整理と翻訳出版コンテクストおよびその背後にある英米文学翻訳観を分析することとした。24年度はそれに基づく考察の継続、研究成果の発表、および、世界文学の視座も接合する考察を追加しながら、研究を進めてきた。交付申請時から若干の研究の推進手順の変更はあったものの、大正~昭和初期の翻訳受容史の整理と翻訳のコンテクストや翻訳観の分析、および英米文学研究の視座拡大という目的から逸脱するものではない。 これまで、トランスレーション・スタディーズと文学研究の各分野における研究発表を行い、両者の接合については方法論としての妥当性と新たな視点の提供ができる方向性を一定程度見いだしている。したがって、当初より25年度に想定していた研究論文の執筆も十分可能と考えており、現在のところ当初計画からの大きな逸脱や遅延はないと認識している。
|
Strategy for Future Research Activity |
当初予定していたとおり、2年間の分析・考察および学会発表を進めてきたため、研究最終年度である25年度は、基本的には論文執筆に集中することを予定している。 年度前半は、執筆に向けた最終的な資料収集とその分析、考察も行う。また、論文投稿に向けた研究発表や、新たな研究成果を得るための学会参加は必要であるため、適宜学会発表の機会があればそれにも参加する見込みである。これらの研究活動にもとづいて、年度後半の論文完成を目指す。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
論文執筆に向けた最終的な資料収集、書籍・消耗品の購入については当初予定通り使用する見込みである。 研究旅費についても、最終的な論文投稿に向けた学会発表、最新の研究成果を得るための学会参加は適宜必要があれば行う予定であり、そのための旅費も幾分必要であると考えている。 その他、論文校閲、資料複写、印刷費用などは、当初予定通りと考えている。
|
Research Products
(3 results)