2012 Fiscal Year Research-status Report
戦後英文学と文化、社会、労働の関係の研究――レイモンド・ウィリアムズを中心に
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23720149
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
近藤 康裕 東洋大学, 経済学部, 講師 (20595409)
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Keywords | ニューレフト / 文化 / 労働運動 / 小説 |
Research Abstract |
平成24年度は、前年度に引き続き、レイモンド・ウィリアムズの文学と文学論が、いかに同時代の政治的・社会的な動きと関連したものだったかを明らかにするべく研究を進めた。具体的には、ニューレフト運動形成の重要な中心となった雑誌 _Universities and Left Review_ 誌の記事を精査し、同時代における政治的イデオロギーとそれへの「文化」の反応を、ウィリアムズやリチャード・ホガートら、ニューレフトに繋がる文学者、文学研究者の論考、発言を軸に分析し、さらにそれにドリス・レッシングの短篇の読解を交えて論じるという試みを、夏に開催されたテクスト研究学会のシンポジアムで企画を自ら立て、そこで発表をおこなった。 また、これまでほとんど研究されてこなかったレイモンド・ウィリアムズの小説の分析研究をさらに進め、初期ウェールズ三部作の二作目をなす _Second Generation_ を仔細に分析し、それを、同時期に書かれた影響力の甚大な著作 _The Long Revolution_ と絡めつつ論じるという発表を、ウェールズのスウォンジー大学の研究者たちと共催した国際シンポジアム "Long Revolutions in Wales and Japan: Raymond Williams in Transit III" でおこない、当地の研究者たちとの討議を通して、さらなる今後の研究のヒントや契機を掴むことができた。この研究の成果は当該年度末の3月に刊行されたプロシーディングズにおいて出版した。また、上記研究に関連する資料の調査研究を3月にイギリスでおこない、進めている研究の裏付けとなる論文や記事等を確認し、今後の研究展開に資するテクストを検討することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
レイモンド・ウィリアムズの仕事を、同時代の政治的、社会的、文化的な動きと連関させながら分析するという本研究課題のこれまでの進捗状況をふりかえると、平成23年度はナショナリズムなどの政治的な動向とウィリアムズについての議論を結びつけた研究をおこない、平成24年度の前半では、それをより具体的なテクスト(_Universities and Left Review_ 誌のような時代背景を如実に反映しているテクスト)の分析と交叉させる試みを発表することができ、さらに平成25年度においても進めていくべき課題を、この方向性の中に見出すこともできた。これに加え、ウィリアムズの小説研究も前に進めることができた。ウェールズでおこなった発表で論じた _Second Generation_ は、第二次大戦後のイギリス社会の諸問題、すなわち「階級」「ナショナリズム」「脱植民地化」そして「労働」の問題に深く切り込んだ小説であり、この分析を通して、社会と文学・文学批評がウィリアムズにおいてひじょうに密接に関連し、独自の文化論の礎石となっていることを発表でき、プロシーディングズのかたちで出版できたことで、当初計画していたところまで概ね研究を進めることができているものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
ひとつには、「社会」「文化」「労働」といったようなキーワードを軸に現代イギリスの文化を研究していることから、こうしたキーワードを幅広い意味での文化論というかたちで文字にして出版することを今年度中にめざしている。 ふたつには、平成24年度にウェールズでおこなった発表の中心であったウィリアムズの小説についての研究を、より詳しい分析と新しい研究を加えるかたちで論文化することをめざしている。また、これまでの研究で一貫してとりくんできた小説形式の研究とウィリアムズの文学・文化論についての分析を総括したいと考えている。 また、これは今後数年をかけて進めるものとなるであろう内容であるが、上記の議論と深く関連しつつ、より現代の問題にからむ問題として、イギリスの80年代における労働運動のあり方を考える重要なヒントとなる84年の炭坑ストとそれの文学化について研究することで、新自由主義的な政策についての文学研究側からの批判がなしうると思われるから、この視座に立った研究を進めていく計画を立てている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
過去2年度に遂行してきた研究で集めた資料やテクストにもとづき、すでに研究発表をおこなったものは、再度の検討を加えつつ論文化していく方向で進む予定だが、この検討段階で新たな研究動向を反映させるために、一次文献ならびに研究書の購入のための支出がある。また、国内外での研究者との討議も重要と考えるから、学会参加も計画している。「労働」をめぐる研究の新たな切り口と考えている、84年の炭坑ストライキをめぐる文化の反応とストライキをめぐる研究を進めるために、新たに文献を購入し、とくに一次資料・二次資料で国内で入手の難しいものに関しては、イギリスでの文献調査をしたいと考えているので、このための支出も計画している。
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