2012 Fiscal Year Research-status Report
ホーソーンと南北戦争前アメリカのコンテクスト――ジェンダーの観点からの研究
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23720151
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Research Institution | Asia University |
Principal Investigator |
藤村 希 亜細亜大学, 経済学部, 講師 (30509237)
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Keywords | 国際情報交換 / アメリカ / ナサニエル・ホーソーン / 南北戦争 / ジェンダー / 評伝研究 |
Research Abstract |
ナサニエル・ホーソーンの生と作品の軌跡をジェンダーの観点から辿るとともに、作家の生きた南北戦争にいたる時代のアメリカの社会と文化の特異性を浮き彫りにすることを目指す本研究の平成24年度の中心作業は、1.前年度の口頭発表をもとにした2本のThe Scarlet Letter (1850)論の完成、2.イタリア・フィレンツェにおけるThe Marble Faun (1860)に関する口頭発表と現地調査、3."Chiefly about War-Matters" (1862)に関する口頭発表、4.次年度のMLA大会における口頭発表の申請、の四つであった。 1.前年度に行ったThe Scarlet Letterに関する2つの口頭発表原稿をもとに、ホーソーンによるワシの表象を通して作品における個人と共同体の関係を再考する1本の論文にまとめ、原稿の依頼をいただいていた論文集に寄稿した。この論文を完成する過程で得た知見をもとに、初期の短編からThe Scarlet Letterにいたるホーソーンの女性表象の変化について別の論文をまとめ、平成25年度初めに学術雑誌に投稿した。 2.6月にフィレンツェにおける学会で、The Marble Faunに関して口頭発表を行った。南北戦争とイタリア統一戦争という二つの戦争への作家の反応から、作家の初期作品とは異なる国家とジェンダーに対するとらえ方を浮き彫りにすることを試みた。 3.12月に立教英米文学会より招待をいただいて、ホーソーン晩年の"Chiefly about War-Matters"について口頭発表を行った。作家自身による本文の削除と注を特徴とするこの作品の意味と意義を再考し、南北戦争への作家の態度を探った。 4.平成26年1月のMLA大会でのセッション"Hawthorne in 1864"への発表応募の結果、発表者として選出された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
平成24年度は、前年度中に出張の立案と発表の申し込みを済ませていたイタリア・フィレンツェでの学会における口頭発表は当初の予定通り遂行できたものの、その他の点で予定より遅れが出ている。これは、所属研究機関の異動に加えて、私事で恐縮ながら父が他界し、本研究の申請時に計画していたアメリカでの調査・研究の遂行、フィレンツェ学会での発表原稿の学術雑誌への投稿などが難しかったためである。 一方、本研究の申請時に予定してはいなかったものの、本研究全体の進展に益する成果もあった。前年度に原稿の依頼をいただいていた論文集にThe Scarlet Letter論を寄稿するとともに、この論文の完成の過程で得た知見をもとに、もう一本別の論文を完成できたこと、立教英米文学会より口頭発表の機会をいただいて"Chiefly about War-Matters"とホーソーン晩年に関する資料の調査・考察を進めることができたこと、次年度のMLA大会におけるNathaniel Hawthorne Societyによるセッションへの応募の結果、発表の機会を与えられたことが、その成果である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度の研究推進方策としては、1.平成24年度までに収集できなかった資料の収集と分析を集中的に行う、2.平成24年度に実施できなかったフィレンツェ学会での発表原稿を学術雑誌に投稿する、3.平成24年度に実施できなかったマサチューセッツ州コンコードでの資料収集・調査を行う、とともに、3の成果を生かして、4.立教『英米文学』の平成25年度号に寄稿予定の"Chiefly about War-Matters"論を完成し、5.MLA大会における口頭発表でのホーソーン最晩年の考察につなげる、こととする。 上記の2から5の研究活動は、全て1850年代末から1864年のホーソーンの死にいたる、作家晩年の時期に関わるものである。現在、南北戦争150周年を記念してこの戦争を再考する新たな研究が続々と出版されてきている有利な状況があるので、この期間の作家の生と作品、そのコンテクストである南北戦争の調査と分析を集中して行うことで、上記の活動同士が互いに益するものとなるように心がけたい。ホーソーンが晩年を過ごしたマサチューセッツ州コンコードは、作家が妻ソフィアと新婚時代の1842年から45年を過ごした地でもあり、また、上記5の発表で取り上げる予定の未完作品The Elixir of Life Manuscriptsの舞台である独立戦争開戦の地でもある。上記3の現地調査では、これらの異なる側面に注意を払いつつ、現地研究員の協力を得ながら資料の調査と収集を行うこととする。上記5の学会発表では、他の国からの研究者たちとの意見交換も重視し、口頭発表原稿に加筆修正を施して学術雑誌に投稿する準備も本年度中に進めたい。以上の通り、本年度はこれまでに残念ながら出てしまった遅れを取り戻すため鋭意計画を実行する所存であるが、計画通りの結果が出ない場合には、研究期間の延長を申請することも視野に入れておきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は、次の理由から当初予定していた予算から平成25年度に繰り越す研究費が出た。第一にコンコードでの資料収集・調査を実施できなかったこと、第二にThe Marble Faun論の学術雑誌投稿を延期したため予定していた英文校正費の利用がなかったこと、第三に書籍その他購入の遅れた資料・物品があったこと、である。この繰越金と、新たに平成25年度に請求する研究費によって、上記「今後の推進方策」で述べた研究活動を遂行する。
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