2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23720165
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Research Institution | Kyoto Women's Junior College |
Principal Investigator |
廣田 園子 京都女子大学短期大学部, 文学科, 准教授 (30368550)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 英米文学 / 文学一般 |
Research Abstract |
本研究は、21世紀英国文学を代表する作家Ian McEwan及びZadie Smithが相次いで発表したテクストに顕在する、モダニズム文学の再構築という興味深い現象の倫理的及び政治的意義を検証することが目的である。平成23年度に実施した研究の中心は、マキューアンがモダニズム文学のキャノンとも言えるVirginia Woolfの代表作Mrs Dalloway(1925)を下敷きに2003年のロンドンを表象したSaturday(2005)に関する論文を執筆することにある。『土曜日』のテクスト構成、およびキャラクター設定の主要部分に見られる『ダロウェイ夫人』とのインターテクスチュアリティについて考察し、マキューアンが如何なる目的でモダニズム文学の代表作を同時多発テロ後の世界と重ね合わせたのかという問題を両テクストに共通する「病」をキーワードに、ダーウィンやマシュー・アーノルド等の19世紀を代表する人物に対する論考も交えながら検証する本論文は現在投稿中である。 更に本論に関連して、気鋭の研究者Michael Whitworthが発表した最新のヴァージニア・ウルフに関する研究書の書評を平成23年10月に『ヴァージニア・ウルフ研究』第28号において発表したが、歴史的コンテクストを子細に検証しながら彼女の多面性を捉えた本書を批評することは当該研究を発展させる上で、極めて有意義であったと考えられる。また『土曜日』と同じく、ウルフ作品をはじめとする過去の文学テクストが大きな影響を与えているマキューアンのAtonement (2001)に関する論文「ブライオニーのもう一つの罪:『贖罪』における閉ざされたカップル」を発表し、テクストにおける不可避的な「歴史の書き換え」から発生する倫理的葛藤が如何に提示されているかを考察し、複雑な進化を遂げるマキューアンの小説世界への理解を更に発展させた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度の研究として計画されていたとおり、イアン・マキューアンの『土曜日』(2005)におけるヴァージニア・ウルフの『ダロウェイ夫人』(1925)の再構築について検証した論文を完成させ、両作品をそれぞれアメリカ同時多発テロと第一次世界大戦という歴史的大事件を経た「戦後」のテクストと位置づけ、「他者との邂逅」というテーマの表象の発展について考察することができたという実績から、おおむね順調に進展していると考えられる。本論文は現在投稿中であるが、発表の暁には本研究の課題である、21世紀英国作家によるモダニズム文学再構築の意義を明確化するための一助となるものと期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
マキューアンの『土曜日』と同じく2005年に発表されたZadie Smith のOn Beautyは、極めて明白にE. M. Forsterの名作Howards End (1910) を現代に置き換えたテクストであり、価値観の全く異なる2家族の交わり、更にどちらにも属さない「他者」の闖入等、特に前半は主要なエピソードがほぼ再現されている。しかし勿論『ハワーズ・エンド』における知的な主人公マーガレットを、大らかなアフリカン・アメリカンの女性として表象されるキキに重ねることを「パロディ」と解釈することも可能だろう。更には本作に横溢する性的エピソードに、『ハワーズ・エンド』のエピグラフ"Only Connect"に対する攻撃的な諷刺を見ることすらできるかもしれない。しかしスミスは本作をフォースターに対する「オマージュ」と位置づけており、自らの著作の全ては彼に負っている、と述べ、フォースターとの文学的系譜の繋がりを強調している。従来的には「諷刺」と解釈されかねない大胆な書き換えが「オマージュ」になり得る可能性、及びスミスが自らのテクストの中で『ハワーズ・エンド』をアップデートすることにより、フォースターの「リベラル・ヒューマニズム」に如何なる新たな解釈を提示しているのか、という諸問題を検証することとする。更に23年度遂行の『土曜日』に関する議論と総合することで、モダニズム文学再構築におけるマキューアンとスミスの異なるアプローチについて総括していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当該の研究を着実に遂行するため、図書や映像資料をはじめとする様々な種類の資料収集を行う必要がある。特に研究代表者は初めてスミスのテクストを研究の中心に位置づけることから、彼女の諸作品及び研究資料に関して広範な収集を行う必要があり、重要な資料については購入し、入手困難な図書・定期刊行物等については該当する図書館において閲覧・複写を行わねばならない。また本書において重要な割合を占めるアメリカのニューイングランドにおけるアカデミズムについて知識を深めるためにも、新たな資料獲得が必要になると考えられる。(設備備品費、旅費、複写費) 更に収集した膨大な種類、形態の資料を効率よく適切に管理するためには、最新のPC周辺機器を利用しデータの電子化を進めることが不可欠である。(設備備品費、消耗品費) また研究成果を確立し、世界に発信していくためには、英語論文の校閲を専門家に依頼する必要がある。(謝金)
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Research Products
(1 results)