2011 Fiscal Year Research-status Report
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23720170
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Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
高橋 優 宇都宮大学, 国際学部, 講師 (40557617)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | ドイツ・ロマン主義 / ドイツ・啓蒙主義 |
Research Abstract |
当該年度は、複数論文を執筆したが、編集の都合により、22年度の実績になってしまったもの、また、24年度以降に回されてしまったものもあり、23年度発表論文は1本となってしまった。これは大きな反省点であるが、本数以上の大きな成果を挙げたことができたと確信している。22年度の実績となってしまった論文:「触覚という活動的感覚―ポエジ―」―「触覚」に関するノヴァーリスのヘルダー受容(ヘルダー研究16号、pp. 25-44)では、ノヴァーリスとヘルダーの感覚論の相違を明らかにし、感覚による世界把握がロマン主義文芸における最重要テーマの一つであると結論づけた。また、当該年度発表論文:ノヴァーリス『信仰と愛』における「詩的国家」(宇都宮大学外国文学研究61号、pp. 39-56)においては、ノヴァーリスが執筆活動を行っていた1800年前後の時代に対する危機意識を浮き彫りにし、危機的状況においてこそロマン主義者たちが見いだそうとした希望の原理を、当時の国家情勢を交えて明確にした。この論文をもとに、平成24年4月1日、ゲーテ自然科学の集い(於慶應義塾大学)にて、学会発表を行い、今後の研究に対し有意義な意見、指摘を得た。また、平成23年8月にはドイツ・マールバハ文学資料館及びオーバーヴィーダーシュテット初期ロマン派研究所にて資料収集を行い、最新の研究書や新しく発見された一次文献等を入手することができた。これを基に、ノヴァーリスの自然科学研究に関してドイツ語論文を執筆した。これは24年度以降ドイツの学会誌に掲載を見込んでいる。また、ペネロピ・フィッツジェラルドによるノヴァーリスの伝記小説『青い花』の翻訳を宇都宮大学外国文学研究61号、pp. 83-97に掲載し、最新の資料に基づく注釈を付与し、学術的意義のある翻訳を行うことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述の通り、23年度は発表論文1本、翻訳1本のみとなってしまったが、当該年度に現れない業績を複数残すことができた。ノヴァーリスの感覚論や自然科学研究は以前から研究対象としていたが、資料収集の成果により、論をさらに深めることができた。さらに、震災以降活発に議論される「危機意識」というテーマも、研究の刺激となり、ロマン派の時代に対する危機意識について考察を深め、論文を執筆し、研究発表を行うこともできた。「危機意識」というテーマは、私の元々の研究対象であるロマン派の時間意識とも密接に関わる問題であり、ロマン主義者たちが当時のフランス革命戦争やプロイセンの新国王の即位、ローマ法王の拉致監禁などに対しどのような危機意識を抱いていたか、それに対しどこに希望を見いだそうとしていたかを考察する貴重なきっかけとなった。フランス革命に対する「危機意識」に対する考察を深めることにより、ロマン派と啓蒙主義の相違はさらに明確になると確信している。
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Strategy for Future Research Activity |
24年度は、ノヴァーリスの自然科学研究に関する論文をドイツの学会誌に掲載することを当面の目標としている。具体的には、初期ロマン派研究所の年報に掲載したいと考えている。全集未収録のノヴァーリスによる自然科学論文を入手したことで、ノヴァーリスと当時の自然科学、自然哲学との影響関係、相違点が明らかになった。これによりノヴァーリスのロマン主義的時間意識の背景に自然科学に対する考察があったということが明確になり、今後のノヴァーリス研究における重要な布石を示すことができると自負している。24年度はさらに、長編小説『ハインリヒ・フォン・オフターディンゲン』の分析を行いたい。この小説に関しては、部分的なモチーフを取り上げた論述はあるものの、作品全体を捉えた論考はほぼ皆無である。時間意識、感覚論、自然科学研究を手がかりに、本作が「超感覚的なもの」、「超時間的なもの」を、「現在」において「感覚的」に提示する試みであると明示したいと考えている。24年度はノヴァーリス研究を一段落させ、25年度以降、フリードリヒ・シュレーゲル、ブレンターノ、クライストの研究へと繋げて行きたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
不覚にも専任の任期が切れてしまい、24年度は非常勤生活となる。従って、コピー、論文抜き刷り、国内旅費等を全て科学研究費から捻出せねばならず、文献にかける費用は減少してしまうが、雑費の残りは、ドイツでの論文掲載にかかる諸費用、ノヴァーリス協会、フリードリヒ・シュレーゲル協会年報、ノヴァーリス、フリードリヒ・シュレーゲル、ブレンターノ、クライストの一次文献及び二次文献を少しずつ揃え、包括的なロマン主義研究の足がかりを築いて行きたいと考えている。
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Research Products
(1 results)