2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23720170
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Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
高橋 優 宇都宮大学, 基盤教育センター, 講師 (40557617)
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Keywords | ドイツ・ロマン主義 / 啓蒙主義 / 感覚論 / 多文化共生 |
Research Abstract |
平成24年度は、任期切れに伴い非常勤講師という厳しい立場のもと、精力的に研究活動を行った。4月にはノヴァーリス『信仰と愛』に見られるロマン派の危機意識について学会発表を行い、10月にはロマン主義と「多文化共生」思想に関しての講演を行った。また、12月にはフリードリヒ・シュレーゲル『ルツィンデ』において展開される感覚論について学会発表を行った。また、宇都宮大学紀要『外国文学』に、一昨年度から続く翻訳、ペネロピ・フィッツジェラルド『青い花』その3を掲載した。さらに、10月の講演原稿に加筆・訂正する形で、宇都宮大学国際学部附属多文化公共圏センター年報に1本の論文を執筆し、12月の学会発表原稿を基に慶應義塾大学独文学研究室『研究年報』に1本の論文を執筆した。多文化公共圏センター年報には、ロマン主義文学に見られる多文化共生的思想に関して、ノヴァーリス、クライスト、アルニムの作品を例に取り、啓蒙主義の著作と比較することで、ロマン主義者たちが啓蒙主義における楽天的な多文化共生的思想を批判しつつ、独自の批判的思想を展開していったことを明らかにした。また、『研究年報』においては、フリードリヒ・シュレーゲルが小説『ルツィンデ』において、啓蒙主義の感覚論の影響を受けつつも、そこにロマン主義特有の官能性を付与することで独自の思想を作り上げていることを示した。ノヴァーリス、クライスト、アルニム、フリードリヒ・シュレーゲルに関し、啓蒙主義との関わりを明らかに出来たことで、ロマン主義思想の全体像を把握するという研究プロジェクトは大きく前進した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究の目的は、ノヴァーリス、フリードリヒ・シュレーゲル、ブレンターノ、クライストの4人のロマン主義者の文学作品を例に取り、啓蒙主義との関係を明らかにすることでロマン主義の全体像を把握することであった。4年計画の2年目にあたる平成24年度は、このうち、ノヴァーリスとフリードリヒ・シュレーゲルに関して考察を行っただけでなく、当初計画になかったクライスト『聖ドミンゴ島の婚約』、アルニム『エジプトのイザベラ』に関してもそれぞれ論文の一部としてまとめることができ、研究は大いに前進した。宇都宮大学多文化公共圏センターにおいて「多文化共生」をキーワードに講演をさせて頂いたことで、自身の研究の幅が大いに広がることになった。前期及び後期のロマン主義に関して、「多文化共生」というキーワードで啓蒙主義との関係を明らかに出来たことで、25年度以降の研究にも大きな指針が出来た。従って、自己評価は「当初の計画以上に進展している」とさせて頂く。
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Strategy for Future Research Activity |
24年度までの研究の成果を踏まえ、25年度はブレンターノの『ゴドヴィ』の研究に着手したい。この作品は、初期ロマン派の影響を受けつつも、至るべき理想郷、及び自我の完結性が放棄されているという点で初期ロマン派とは一線を画していると考えられる。初期ロマン派と後期ロマン派の相違は、後者における理想郷の放棄と超越論的自我の否定にあると考えられるが、この相違はなにをきっかけに生じたものなのだろうか。一つの仮説として、これは、フランス革命直後、革命に希望を抱いていた初期ロマン主義者たちと、その後の革命の迷走に失望した後期ロマン主義者たちの歴史観の相違に起因すると考えられる。後期ロマン派最初の長編小説であるこの作品の分析により、後期ロマン主義の性格を明らかにすることが25年度に取り組むべき課題である。 後期ロマン主義時代において、もう一つの注目すべき作品は、クライストの『マリオネット芝居について』である。この作品の主題は、近代的な自己意識の変遷過程である。1800年前後における近世から近代への時代の変遷により、人間の素朴な自己意識に限界が訪れ、新たな自己同一性を求める必要性が生じた。クライストは新たな自己同一性を、マリオネットの比喩を通じて、完全なる無意識の中に求めている。クライストが投げかけた自意識の問題は、啓蒙主義以来テーマとなっていた人間の自己同一性への問いの近代的な形態であると言える。26年度はこの作品を中心に研究を進めて行きたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
25年度においては、主にクレメンス・ブレンターノの研究を行うため、歴史批判全集を段階的に揃えるとともに、ロマン主義文学、及びブレンターノに関する二次文献をできるだけ多く購入したいと考えている。エンツェンスベルガーのブレンターノ論(1961)の他、ホルスト・ハイヤー(1977)、ベルント・ライフェンベルク(1990)の『ゴドヴィ』論などは必要不可欠である。また、秋には成果を国内の学会で発表し、二本程度の論文にまとめることを予定している。そのため、国内出張費や論文抜き刷り代にも研究費を使用予定である。また、所属が変わったことで、研究環境を新たに整える必要が生じた。研究室内のインフラを揃えるための経費も科学研究費から一部捻出する予定である。
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