2011 Fiscal Year Research-status Report
19世紀フランスの中等教育―規範の変遷と文学の生成
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23720173
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
畠山 達 日本大学, 法学部, 助教 (10600752)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 国際研究者交流 フランス / 国際情報交流 フランス / ボードレール / 教育史 / レトリック |
Research Abstract |
昨年度は、クルツィウス及び、ヴォルピアック=オージェらが記した論文を参考にしながらAd usum Delphini叢書とAd usum scholarum叢書に関する研究をすすめた。その結果、予定通り、正典の成立についての研究を進める地歩を概ね固めることができた。 当初の研究計画では、ボードレールの文学作品と教育との関係については最終年度に行う予定であったが、初年度から着手した結果、有意義な研究成果をあげることができた。 まず、「ボードレールの散文詩:「完璧な素描」としての試み」と題した論文が『日本フランス語フランス文学研究99号』(2011年8月刊行)に掲載された。本論では、19世紀の中等教育の中でどのようにラテン詩が教えられていたか注目し、新しい観点からボードレールの散文詩を読み解くことができた。2011年9月には「Pourquoi Baudelaire detestait l'ecole」という論文を『L’Histoire』に発表した。その際、具体的な教育内容、学校の規律などを取り上げることによって、ボードレールの中で「反抗」の精神が涵養された可能性を提示することができた。更に『L'Annee Baudelaire』(2011年12月刊行)に、ボードレールの受けた学校教育の内容と歴史的背景を検討した論文「La Formation scolaire de Baudelaire」が掲載された。この論文を通して、改めて文学研究における学校教育の重要性を広めることができた。また、ソルボンヌ大学で開催されたボードレール国際シンポジウムへの参加を依頼され、「Baudelaire dans le monde academique au Japon」という発表を2011年12月に行った。ここでは、日本の歴史と社会を踏まえ、ボードレールが日本の大学でどのように正典化されたか検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度は、教科書に見る正典の成立とその変遷を追うことが第一の目的であった。クルツィウスの『ヨーロッパ文学と中世』やヴォルピアック=オージェなどの論文、およびAd usum Delphini叢書、Ad usum scholarum叢書などの文献渉猟や精査が少しずつ進み、この点では研究はおおむね順調にに進展している。 しかし、大学の業務と家族の手術のために、当初予定していたフランスの国立古文書館での資料調査ができなかった。以前から集めた資料を少しずつ整理しているものの、資料不足は否めない。この点においては、研究は当初の予定よりも遅れている。 フランスでの調査を延期した分、当初は最終年度に予定されていたボードレールの文学作品と教育との関係についての研究に取り組んだ。この研究はフランスでの長期間の調査を必要としないため有意義に時間を活用することができた。その結果、日本およびフランスの主要研究誌に論文を3本記し、パリで開催された国際シンポジウムにて口頭発表をすることができた。また最終年度に取り組む予定の問題を初年度に行ったことによって今後発展させることのできる課題も見つかり、結果的に研究順序の変更は非常に効果的であった。 以上、国立古文書での調査の遅れと、ボードレール研究の進捗を相殺して、おおむね順調に進んでいると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画にあるように、本年度は前年に引き続き教科書を研究対象にし、正典の成立とその変遷を追う予定である。昨年度は予定した文献をある程度精査することができた。しかし、イエズス会のRatio Studiorumやコレージュで使われていた教科書などの分析を行うことができなかった。本年度は昨年度の研究を踏まえた上で、この点から始めることになる。 次に18、19世紀に主に使用されていた古典文学の教科書(レオン・フジェール、ルイ・キシュラール、ノエル等)の調査を行う。その際、アンドレ・シェルヴェル、アラン・ショパンらによるフランス語教育と教科書に関する研究、ダニエル・ミロによる正典に関する研究を手掛かりにする。 フランス国立古文書館における調査も予定通り行う。可能な限り長期間出張し、昨年閲覧できなかった資料調査から始める。具体的には、請求書番号F/17/6771とF/17/7532に保存されている資料(1833年におけるパリおよび地方の学校の時間割と授業内容等)が調査の対象となる。これは当時文部大臣を務めていたギゾーが、政府の指定した教育内容が遵守されているか確認するために提出させた報告書である。 同時に、請求書番号F/17/7646以降に保存されている視学の報告書も調査の対象とする。これには19世紀の中等教育施設のレベル、教師に対する評価、実際に利用されていた教科書や教育方法が明記されており、当時の教育現場を知る上で貴重な資料となる。これらの資料を精査し論文としてまとめ、発表するのが本年度の目的となる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費は主に設備備品と外国旅費にあてることになる。設備備品としては、フランスおよび国内での資料調査や整理を円滑の行うためにノート型パソコンとデータ処理に必要なソフト等が必要になる。またフランスの国立古文書館ではコピー機を利用した資料の複製は禁止されているが、デジタルカメラでの撮影は許されている。そのため、適当なデジタルカメラの購入も必要となる。 書籍に関しては、関連研究書はもとより、フランスでの購入が可能であれば19世紀に使用されていた主要な教科書、辞書、参考書などを入手し、日本にいながら研究が可能になる環境を少しずつつくりたい。 フランスの国立古文書館にて行う資料調査のために、海外旅費も欠かすことができない。一枚一枚の資料を精査するには多くの時間を要するものの、国立古文書館の開館時間は限られているため、短い滞在では効果があげにくい。実りある研究をするため、最低二週間は調査に時間がかかる為、滞在費も計上する必要がある。 上記以外には、文具、論文などの印刷費、コピー代などが必要となる。
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Research Products
(4 results)