2013 Fiscal Year Research-status Report
19世紀フランスの中等教育―規範の変遷と文学の生成
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23720173
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
畠山 達 日本大学, 法学部, 助教 (10600752)
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Keywords | ボードレール / レトリック / 詩法 |
Research Abstract |
平成25年度は、19世紀におけるフランス詩法の成立と変遷を研究することが主な目的であった。フランス詩法は、ボワローらによってある程度規範化されていたとはいえ、音綴数や韻など言葉の厳密な用法については、未だ曖昧な点も見受けられた。それだけではなく19世紀に至ってなお、ラテン語と同じ長短アクセントをフランス詩法に適用しようとする動きさえあった。その背景には教会で使用される聖なるラテン語と俗語フランス語というヒエラルキーが存在した。この関係に基づいて学校では、ラテン詩法が重要な地位を占める一方、19世紀に入ってフランス詩法はその教育が禁止される。 19世紀の詩人たちはこのような教育を受けていたことを考慮すれば、ラテン詩とフランス詩を完全に切り離して考えることはできない。またラテン語かフランス語選択して書くという行為自体もある特殊な意味を持ちうる可能性があった。実際、ボードレールはその詩集の中に一篇のラテン詩を挿入している。 また、19世紀に入ってからルイ・キシュラールとジュール・デシオーによる詩法が刊行され、新たな規範化の動きが活発化する。それに相対する形で、ロマン派の潮流を反映したウィルヘルム・テニンと高踏派と称されるテオドール・ド・バンヴィルはフランス詩の新しい可能性を模索し、それぞれ詩法を刊行する。フランス版グラデュスなど他にも参照すべき詩法はあるが、複雑な歴史的背景を考慮した上で、それぞれの詩法に関する研究ノートを作成中である。 今後の基盤となるこのような研究を進行させつつ、ボードレールの用いた詩法やレトリックは、どのような位置づけになるのか検討した。その際、当時古典とされていたラシーヌの作品と比較することによって、ボードレールがその詩に込めた意味を再考することができた。その成果は、平成25年9月7日にボルドー第三大学と中央大学の共催で行われた国際学会で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度から引き続き行っているAd usum Delphini叢書からAd usum scholarumに至る研究も行っているが、資料が膨大かつラテン語という言語の問題があるため、完全にまとめるまでにはかなりの時間を要することが予想される。また19世紀におけるフランス詩法の生成と変遷の研究も同時に手がけているが、語や韻の使われ方、そして実際のレトリックの用法などは、詩法やそれに関する本だけではなく、多くの詩作品、かつそれが書かれた時期や背景なども考慮に入れた非常に細かい研究が必要であり、多大な時間とエネルギーを要するものである。 大学の授業、本務校の学務、そして学会の仕事なども抱えていた状況で、研究に費やせる時間は当初の想定をはるかに超えて少なかった。以上の理由で、研究の進捗は当初の想定よりやや遅れているものの、本研究の要求する資料精査の量を考えれば、すぐに成果が望めるものでもない。また、この研究の方向性も間違っているわけでもなく、人文系の学問領域にとって実り多い研究となることは疑う余地がない。 時間が限られた中で、国際学会で研究発表を行い、一定の成果も出すことができたことを考えれば、総じて遅れはあるものの、決して悲観するような状況ではない。最終的に、研究に与えられた時間とその内容を考慮すれば、おおむね順調と判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の扱う範囲が広く、その資料が膨大であるため、まとまった研究成果を出すにはまだ多くの時間を要する。本年度は授業数が増し、学務も大幅に増えることを考慮すれば、研究に費やせる時間は昨年度以上に限られたものになる。とはいえ、中途半端な研究成果を公表することは考えず、今後の研究に繋がる有意義な成果を目指す。 そのため授業のない時期は可能なかぎり長期間パリの国立図書館および国立古文書館にて調査と論文執筆を行うことになる。また入手可能な資料もできる限り購入し、研究環境をさらに改善する必要がある。 具体的に前期は、Ad usum scholoramと銘打たれた教科書をまとめる作業を続ける。その際、古典教育が文学生成に果たした役割も検討するために、教科書の中で規範とされた作品と生徒による作文(宿題、コンクール・ジェネラル、試験等)を、教科別、世代別に比較することになる。そして、その中心にボードレールの作文を据えることによって、その内容を相対的かつ重層的に検討する。この成果は、12月に岩手大学でボルドー第三大学との共催で行われる国際学会にて発表する予定である。 後期は、これまで続けていた詩法に関する研究をまとめ、19世紀の詩法について論文を記す予定である。その際、詩法やレトリック、教育の内容を元に、できるかぎりボードレールの文学作品との具体的な関係を検討する予定である。
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