2013 Fiscal Year Research-status Report
大戦間期ガリツィアのポーランド系ユダヤ人作家、画家の芸術思想的系譜とモダニティ
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23720174
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
加藤 有子 東京大学, 人文社会系研究科, 助教 (90583170)
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Keywords | ポーランド文学 / ポーランド文化 / ガリツィア / 中欧 / ユダヤ人の文化 / モダニズム / ユダヤ人文化遺産 / 美術館 |
Research Abstract |
1.東ガリツィアにおける両大戦間期ユダヤ人の文化動向を、それらの現在にまで射程を広げて調査・考察した。(1)同地におけるユダヤ人の文化遺産の所有権について、カフカの遺稿の所有をめぐる事例などを参照しながら考察し、口頭報告にまとめた。(2)EUの東方文化政策や、現在ウクライナとなったリヴィウの美術館におけるユダヤ文化財の保存状況について調査し、口頭発表した。 今年度は入手済みの資料や日本で入手可能な二次資料を使って考察を行った。来年度はリヴィウやイスラエルへの短期の現地調査によって、踏み込んだ議論に展開する予定だ。 2.両大戦間期ガリツィアのユダヤ系ポーランド作家ブルーノ・シュルツの作品を手がかりに、19世紀末から20世紀初頭にかけてハプスブルク帝国領を中心に、ロシアや北欧まで流通した通信販売の広告の女性像と文学・芸術におけるその受容を調査した。ここから、当時のガリツィア・ユダヤ人が共有したひとつの文化圏が言語圏や国境を越えて広がっていたことが明らかになった。20世紀初頭の中東欧モダニズムの版図にガリツィアの中心都市リヴィウを組み込む可能性を探る本研究にとって、ひとつの手がかりになる成果である。これについては論文にまとめ、シュルツの美術作品についての論考とともに、『ブルーノ・シュルツの世界』(成文社、編集・共著)にまとめて刊行した。これはシュルツの画業をカラー図版で本格的に紹介する日本では初めての本でもあり、作家として知られるシュルツの画家としての側面を本格的に、かつ専門家のみならず一般向けにも紹介する意味を持つ。 3.両大戦間期ポーランドのユダヤ系前衛映像作家、アーティストのステファン・テメルソンの1930年代の活動についての調査を進め、海外ゲストを招いて東京大学で特別講義を行い、意見交換をした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
計画していたテーマの調査は予定通り進んでいる。加えて、計画時にはなかった新しい視点を調査の過程で得ることができた。それらに関しては、次年度に事前調査を予定している。その事前段階として、基本的な事実関係の調査と枠組み作りを行った。 前年度までの調査やシンポジウムの成果は、刊行物のかたちで発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
19世紀以降のリヴィウの美術館のユダヤ文化財保存や、現在のEUやポーランドの文化政策、東欧地域のユダヤ文化財保存の官民の動きを調べるうちに、リヴィウも含めた中東欧文化地図の書き換えの可能性を探る本研究では、当時の状況に関する調査とともに、「中東欧」やユダヤ人のいたかつての状況が今日までどのように語られてきたのか、という言説分析も必要となると考えるに至った。これ自体、ひとつの独立した研究テーマになる問題だが、本研究ではその導入的な考察までも含めたいと思う。 研究対象を現在までの射程で捉えるという新しい発想を得て、次年度は過去に関する資料とともに現在の様子を実地に調査・把握し、研究を深化していく。 具体的には、夏季休暇などを利用して、ウクライナのリヴィウ、ポーランドなどに渡航し、現地の図書館、美術館の資料、そして新設の博物館や美術館の展示・解説状況を調査する。また、ウクライナなどからリヴィウの美術・文化状況の専門家を呼んで、本研究のひとつのまとめとなるようなシンポジウムを行いたいと考えている。
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Research Products
(6 results)