2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23720176
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
竹内 恵子 東京大学, 人文社会系研究科, 研究員 (10600223)
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Keywords | ロシア文学 / 亡命文学 / 国際情報交換 / ロシア:アメリカ |
Research Abstract |
平成25年度は、当初の計画にしたがって、おおむね順調に研究が進展した。 まず、「亡命ロシア文学におけるアメリカ文化受容の諸相」という本研究テーマにもとづいて行った研究成果の一部を、「詩景としてのアメリカ受容――ヨシフ・ブロツキイとロバート・フロスト」という論文の形で発表することができた。これは、平成24年10月の日本ロシア文学会で口頭発表したものに追加訂正を行い論文化したものである。これにより、これまで未解明だった点(亡命ロシア詩人ブロツキイに対するアメリカ詩人フロストの具体的な詩学上の影響)を解明できたと共に、「基本的にヨーロッパ大陸の人間」という自覚を持っていたブロツキイが、当初はフロストに傾倒したものの、「あまりにもアメリカ的な」フロストから次第に離れていく経緯をも分析することができたと考えられる。 また、平成25年度は、資料収集という観点からも、非常に有意義な活動を行うことができた。 平成25年9月に10日程度、また平成26年3月に2週間程度、ロシア連邦に出張を行った。ロシア国立図書館(モスクワ本館)では、ロシア亡命文学に関わる学位論文について綿密な調査を行い、必要な文献は可能な限り複写を行った。更に、ロシア国立図書館(サンクトペテルブルグ)および同地のアフマートワ博物館(フォンタンカ館)において、ノーベル賞詩人ブロツキイの、ソ連時代の原稿および蔵書について時間の許す限り調査を行った。もっとも、手稿(タイプ原稿を含む)だけでなく目録自体も複写禁止の措置が取られていたため抜書するしかなかったのと、蔵書はまだ未整理の状態で写真撮影を行うしかなかったため、当初の予定よりも大幅に時間がかかった。 いずれにせよ、本邦の研究者としては初めて、ブロツキイの手稿および蔵書の所在確認と管理責任者との接触に成功したため、一定以上の成果をあげることができたものと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
報告者はこれまで日本国内およびロシア連邦各地に出張を行い、20世紀後半を主とした亡命ロシア文学(詩人ヨシフ・ブロツキイ、作家アレクサンドル・ソルジェニーツィンという、ソ連からアメリカへ亡命した二大ノーベル賞受賞者を主に念頭に置いている)と、おのおののアメリカ文化受容の問題について、可能な限りの資料の調査、入手、整理等を行ってきた。また、この三年間を通じて、学会(国内)における口頭発表(1回)、査読つき雑誌論文(2本)、著作刊行(1冊)という成果をあげることができた。 これにより、冷戦時代のソ連とアメリカの文化的関係について、現時点ではまだおぼろげながら、一定の推移と傾向をつかむことができつつあると感じている。
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Strategy for Future Research Activity |
「研究実績の概要」と「現在までの達成度」において述べたように、報告者はこれまで本邦とロシアにおいて資料の調査等を行うことができた。これにより、亡命ロシア文学者たちの亡命前(ソ連時代)の創作活動について一定の知見を得ることができた。 しかし、現時点ではまだ、彼らの亡命後(アメリカ時代)の創作過程によってもたらされた文化的意義についての十分な研究に取りかかっていない。したがって、今年度は、アメリカ合衆国での資料収集調査を行いたいと考えている。具体的には、ソ連からの亡命者(特にユダヤ系)が集中したニューヨークと、亡命詩人ブロツキイのアーカイヴのあるイェール大学(コネティカット州ニューヘイヴン)のバイネキー(Beinecke)図書館での調査を予定している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
第一に、平成25年9月に行ったロシア出張は10日しか行えなかった。なぜなら、同月5~6日にサンクトペテルブルグでG8サミットが行われた関係で、宿泊先および飛行機の座席の確保がその前後は難しかったからである。また、報告者が非常勤講師として奉職している東京理科大学理工学部の後期授業が9月24日に開始したため、20日には帰国しなくてはならなかった。そのため、当初の計画よりも大幅に出張期間を短縮せざるを得なかった。 第二に、平成26年3月に行った二回目のロシア出張(モスクワ一週間、サンクトペテルブルグ一週間)にかかった費用も予想を下回った。なぜなら、ロシアの観光シーズンは夏季であるため、オフシーズンの冬季は、夏季のそれと比べて宿泊料などがかなり安価であるからである。そのため、当初に予想して請求していた旅費を使いきれなかったのである。 今年度の使用計画としては、先述したように、まずアメリカ合衆国での資料収集調査を行うための出張費として使う予定である。 また、既に行ったロシア出張では、前述したように資料の抜書や撮影に時間をとられたため、必要な調査を全て遂行することができなかった。したがって、可能であれば、今年度中に再度ロシアに出張したいと考えている。もっとも、現時点(平成26年4月下旬)では、ロシアの隣国ウクライナ東部で紛争が起きており、なりゆきによってはロシアも紛争に巻き込まれかねない。ロシアに渡航できる状況が変化するかどうかも含めて、今後の事態の推移を見守っていきたい。
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Research Products
(1 results)