2011 Fiscal Year Research-status Report
モンテーニュにおける宗教・哲学思想の変貌―トリエント公会議を背景に―
Project/Area Number |
23720179
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
久保田 剛史 青山学院大学, 文学部, 准教授 (60555382)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 仏文学 / 思想史 / モンテーニュ / トリエント公会議 |
Research Abstract |
平成23年度は、モンテーニュにおける宗教・哲学思想の変貌を解き明かすべく、一次資料である『エセー』の諸版(1580年版、1582年版、1588年版)のリプリントを購入したうえで、諸版に見られる加筆文や削除文について検討を進めた。 この読解作業をもとに、モンテーニュが宗教戦争を描出する際に用いた暗示的な表現技法と、『エセー』に見られる彼の宗教的寛容ないしは非暴力主義について、現時点での研究結果を発表した(『立教大学フランス文学』の論文を参照)。この研究結果では、宗教戦争(これはモンテーニュによると宗教的正当性から隔絶した「今・ここ」の世俗的な争いにすぎない)の利己性や残忍さを暗々裏に暴くと同時に、古代人の範例(exempla)を通して人間の残忍さを非難する、モンテーニュの(超時代的な)平和への意向を明らかにした。以上の指摘は、モンテーニュの宗教思想はもちろん、(古代と現代の個別的事象を識別せずに人間の本性を探求する)彼の人間観を研究するうえでも貴重な材料となるはずである。 また、モンテーニュの宗教・哲学思想を解明するための重要な鍵ともいえる、トリエント公会議以降の神学的文脈についても考察を深めるべく、アウグスティヌス著『神の国』の仏語訳(1570年刊)に関する資料調査を行い、現時点での論考を纏めて公表した(筑波大学の電子ジャーナル論文を参照)。この論文では、ジャンシャン・エルヴェによる仏語訳『神の国』の序文を読み解いたうえで、16世紀後半のフランスにおけるアウグスティヌス作品の神学・哲学的受容が、カトリック側による対抗改革運動と密接な関係にあることが証明された。なお、この論考はモンテーニュの思想を直接扱ったものではないが、『エセー』には『神の国』からの引用や翻案が数多く見られる以上、モンテーニュの思想形成を解き明かすにあたって重要な手がかりを与えてくれるはずである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初(交付申請時)の段階では、(1)トリエント公会議直後の文化的・宗教的文脈を明るみにすべく、フランス・カトリック陣営による16世紀後半の宗教論争文集(Anti-Calvin)を読み解くこと、(2)モンテーニュの思想的変貌を調査すべく、『エセー』の諸版を購入して各版の比較的読解を行なうこと、の2点を研究計画として挙げた。このうち、(2)については「研究実績の概要」でも記述した通り、現時点での調査結果を公表できたため、当初の計画を十分に達成できた。しかし、(2)については、Anti-Calvinが所属大学の研究費による購入が不可能となったため、十分には達成できなかった。とはいえ、全く達成できなかったわけではない。カトリック論争文集のうちで資料調査に踏み込むことのできた文書は、ジャンシャン・エルヴェによる神学論集数点である。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは、平成23年度に実施予定であった「カトリック論争文集の調査・読解」の作業を終了させるつもりである。この研究に関する参考文献の購入および読解作業について、今年度は十分に達成することができなかった。今年度の予算に若干の残高が生じたのはそのためである。 とはいえ、論争文集の全てを読み通すことは時間的に無理があるため、16世紀後半(トリエント公会議以後)の出版事情に関する既存研究をもとに、(フランスにおける対抗改革の指導者である)ロレーヌ枢機卿の周辺に位置するカトリック出版業者のネットワークをあらかじめ確定したうえで、重要なカトリック論争文を中心に読解作業を進めたい。 また、「(一般信徒向けの)教理問答に関する資料調査」についても、カトリック論争文の読解作業と並行して進める予定である。この資料は、16世紀後半のカトリック信徒(モンテーニュもその一人)に見られる宗教感情はもとより、『エセー』の「レーモン・スボンの弁護」や「祈りについて」などで展開される数々の宗教的議論を読み解くにあたって、貴重な情報源となるはずである。ちなみに、16世紀後半の教理問答に関しては、インターネット上で公開している文書がほとんど存在しないばかりか、フランスの各地方により普及状況が異なっているので、(モンテーニュの出生・生存地であったアキテーヌ地方最大規模の)ボルドー市立図書館、およびパリ国立図書館での資料調査が必要となる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初(交付申請時)の予算計画では、平成24年度の物品費は0円とし、予算の全額を旅費とその他(資料複写費)に充てるつもりであった。しかし、16世紀後半の「カトリック論争文集の調査・読解」にあたって、トリエント公会議以降のフランスにおける出版事情、およびカトリックの神学教義に関する参考文献を購入する必要が生じたため、書籍代として16万円(1万円×16冊程度)を使用したい。また、教理問答に関するフランスでの資料調査(10日間)のために、旅費として20万円、および文献複写代として5万円を使用したい。
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