2014 Fiscal Year Annual Research Report
モンテーニュにおける宗教・哲学思想の変貌―トリエント公会議を背景に―
Project/Area Number |
23720179
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
久保田 剛史 青山学院大学, 文学部, 准教授 (60555382)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 仏文学 / 思想史 / モンテーニュ / トリエント公会議 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の主旨は、トリエント公会議が16世紀末のフランスにもたらした社会的・文化的問題を基軸に、モンテーニュにおける宗教的・哲学的変貌を解き明かしながら、『エセー』にみられる神学思想の独自性を指摘することにある。 平成23年度は、一次資料となる『エセー』の加筆・削除文に着目しながら、モンテーニュの宗教思想に見られる変化について研究した。とりわけ、フランス宗教戦争をめぐる具体的言及や表現技法において、モンテーニュ独自の人間観や平和主義が見られたことは、特筆すべきである。また、トリエント公会議以降の神学的・哲学的思潮についても明るみにする必要があったため、平成24年度には、カトリック陣営の神学書や宗教論争文について調査を行った。さらには、公会議以降のカトリック思想とモンテーニュ自身の宗教思想との接点についても検討を試みた。これらの研究内容を補足すべく、平成25年度には、フランス16世紀後半の宗教的思潮および政治・社会的情勢に関する調査を進めた。平成26年度には、『エセー』で引用・借用されている懐疑思想家たちの著書を通して、懐疑思想が16世紀キリスト教思想でどのような位置を占めているのか考察した。 以上の研究から、トリエント公会議はフランスの神学思想にもたらした影響力こそ決して多大ではないものの、宗教戦争という特殊な政治情勢と絡み合いながら、論争文の形式的発展や宗教感情の変化に寄与した、という点が理解できた。とりわけモンテーニュの場合は、「レーモン・スボンの弁護」での論述形式や、「祈りについて」または「ケア島の習慣」などの宗教的題材において、公会議の間接的影響が見てとれた。こうした宗教思想に正当性・普遍性を与えるべきものとして、懐疑思想が大いに援用されたという点が、今回の研究を通して明らかになったことであり、そこにモンテーニュの思想的独自性のひとつが見いだせるのである。
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