2011 Fiscal Year Research-status Report
18世紀フランスにおける博物学の興隆と描写詩―ビュフォン受容の問題を中心に
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23720180
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
井上 櫻子 慶應義塾大学, 文学部, 助教 (10422908)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 仏文学 / 美学 / 哲学 |
Research Abstract |
本研究課題の初年度である平成23年度には、特にジャック・ドリールの晩年の著作に注目しながら、博物学の興隆と描写詩の発展についての考察を進めた。そして、その研究成果の一部を以下に挙げるような国内外の学術雑誌で発表した。まず、ドリールの最晩年の著作『自然の三つの領域』にみられる動物の描写にビュフォンの『一般と個別の博物誌』に展開されるさまざまな動物の生態の記述の影響が色濃くあらわれていることを明らかにし、さらにドリールの動物の描写が18世紀末から19世紀の読者にどのように評価されていたかという問題についても検討した。この研究成果は、慶應義塾大学藝文学会の刊行する『藝文研究』第100号、第101号に発表している。また、ドリールの先駆者であるルーシェの作品における動物の描写とドリールの動物の描写の比較検討にも着手し、その成果を『百科全書』研究会の刊行する『「百科全書」啓蒙研究論集』第1号に発表した。さらに、ドリールが晩年に発表した哲学詩の一つ、『想像力』に見られる感受性論についての考察をフランスで刊行されている『フランス文学史研究雑誌』第111巻第3号に発表した。 夏にはフランスに三週間強滞在し、とくにフランス国立図書館において博物学や描写詩の発展に関する資料収集を進めると同時に、パリ大学をはじめとするフランス本国のさまざまな研究機関に所属するルソーの専門家や、アンシャン・レジーム期のフランス詩の専門家との学術交流を行った。その結果、ルーシェの作品に見られるルソーの政治思想の影響に関する考察を『ルーシェ=シェニエ研究手帖』第32号に発表したり、ナンシー第2大学にてサン=ランベールと文芸庇護者との関係についての研究成果を報告(報告タイトル「ロレールの詩人、サン=ランベール」したりする機会を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成23年度は本研究課題の初年度であったが、先に述べたように既に国内外の学術雑誌に研究成果の一端を発表することができた。そのうち、『「百科全書」・啓蒙研究論集』と『フランス文学史研究雑誌』に掲載した論文については、いずれも査読の結果掲載されたものである。したがって、本研究課題の研究代表者による研究成果は、国内外の18世紀研究者、およびフランス文学研究者により一定の評価を受けていると考えられる。 また、夏のフランス滞在時には、ドリールの晩年の著作や博物学的著作についての資料収集を行っただけでなく、サン=ランベールの『四季』諸版に関する文献調査にも着手することができた。サン=ランベールの作品に関する調査は、平成24年度以降に予定していたものである。したがって、平成23年度にやや前倒しする形で、サン=ランベールについての研究を開始できたことにより、今後の研究はより円滑に進むものと予測される。 さらに、フランス滞在時にパリ大学をはじめとするフランスの研究機関に所属する研究者と交流を行った結果、新たに18世紀のフランス詩に関する学術雑誌『ルーシェ=シェニエ研究手帖』に、ルソーがルーシェの政治的考察に与えた影響についての研究成果を発表する機会も得られた。これにより18世紀のフランス詩の専門家と新たなネットワークを築くことができた。本研究課題申請時には予想できなかった大きな進展である。これから描写詩に展開される自然の事物に関する研究を進める中で、彼らからもきわめて有益なアドバイスを受けられると予想される。
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Strategy for Future Research Activity |
これまではビュフォンの『一般と個別の博物誌』に考察の焦点を絞って、描写詩の発展との関係について検討してきた。しかし、今後はキュヴィエ、レオミュール、ドバントンなどビュフォン以外の博物学者の著作にも視野を広げて資料調査、テクスト分析をを行いたい。また、平成24年度よりテクスト分析を展開するのみならず、博物学関連の著作に収められている図版と解説との比較検討にも着手したい。18世紀後半に活躍した博物学者の著作の一部は、すでにフランス国立図書館の提供するデジタル図書館「ガリカ」に収められており、日本でもある程度の調査準備を進めることができるが、さまざまな版との比較検討や、図版の閲覧などは、フランス本国でしか行うことができない。したがって、夏にやはり二、三週間程度フランスに滞在し、研究調査を進めると同時に、アンシャン・レジーム期のフランス詩に関する専門家との学術交流を行いたい。そして、フランス本国における博物学、および描写詩についての研究の現状を確かめたいと考えている。 平成23年度から引き続いて、平成24年度もドリールやルーシェにおける自然描写と博物学との関係についての考察を進めてゆく予定であるが、さらに、今年度は描写詩というジャンルを確立したサン=ランベールの『四季』の生成過程についても調査を進めてゆきたい。ドリールほどには徹底していないものの、博物学的知識を描写詩の世界に取り込もうと最初に試みたのはサン=ランベールであると考えられる。したがって、描写詩の起源にたちかえることは、博物学的著作におけるさまざまな自然の事物の解説が、描写詩における自然描写の変容にどのような影響を与えたのかという問いへの回答を示すために必要な作業であると考えられるからである。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
主たる使用方法は、物品費および旅費である。 まず物品費の内訳については、現在刊行中のビュフォン全集批評校訂版をはじめとする18世紀の博物学関係の著作、およびアンシャン・レジーム期に発表された自然の歌に関する著作といった書籍の購入費が大部分を占めると予測される。必要に応じて、文房具、パソコン周辺機器など研究の遂行に必要な消耗品の購入費にも充てたいと考えている。 そして旅費については、夏期休暇期間中のフランス渡航費(航空券)、および二、三週間分の滞在費(宿泊代、日当)としての使用を予定している。
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Research Products
(6 results)