2013 Fiscal Year Research-status Report
マラルメと象徴主義を中心とする無意識の詩学の生成とその展開
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23720181
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
熊谷 謙介 神奈川大学, 外国語学部, 准教授 (20583438)
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Keywords | 国際情報交換:フランス、ベルギー / 自然 / 哲学 / 精神分析 / 美学 / 社会思想 / 他者 / 世紀末 |
Research Abstract |
本年度の主要な研究としては、象徴主義やデカダンス文学の徒花としてあまり光を当てられてこなかった女性文学者ラシルドの作品を、同時代のジェンダーの言説との比較から読み解いたことが挙げられる(「BL小説の起源? ──ラシルド『自然を外れた者たち』分析」)。この論文では、英米圏で評価の進むラシルドを日本に紹介し、これからのラシルド研究の土台を作ることを目指した。そして「自然/人工」「女性/男性」という対立がいかに捻じれた形で作品を貫いているかを示すことで、無意識の表象の複雑さを示すことができたように思う。 また表象文化論学会において、「声」という観点からマラルメの祝祭を論じ、古代ギリシャから中世、現代演劇への道筋のなかで、その歴史的意義を探る発表を行った(「舞台上演と典礼の間で―マラルメによる「声」の祝祭」)。それに伴って、フランス語フランス文学会書評誌Cahierにマラルメ研究の書評を掲載した(「佐々木滋子『祝祭としての文学―マラルメと第三共和政』書評」) 無意識のテーマは、現代の思想においてしばしば取り上げられる動物性のテーマに連関するものである。「ダンシング・ベア、シャイニング・ベア――熊としての芸術家の肖像」では、マラルメとフロベールが熊という形象をいかにして自らの文学的営為と結びつけ、作品の中に取り込んでいったのかを、単に熊を動物性に還元するのではなく、熊をめぐるイメージの歴史を踏まえながら論じた。 論文という形にはいまだならないが、無意識と死という問題から、マラルメの未完の断章「アナトールの墓」の読解を進めている。また2013年度のラシルド研究を土台として、ラシルドの作品の研究・翻訳も、とりわけ女性やジェンダーという観点と、世紀末の文脈から論じ続けていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
19世紀末のフランスにおける無意識の美学について、本年度はとりわけジェンダーと動物性といった観点から新領域を切り開くことができたように思う。またマラルメ研究にも新たな見地を付け加えることができた。当初目標として掲げていた同時代のジイドやヴァレリーの文学作品の読解も進んでおり、研究全体の進捗に支障はないと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
文学作品の分析を進めるため、フランス国立図書館のデジタル資料や東京大学図書館所蔵資料から取り出されたデータの解析という比較的手の付けやすい場所から始める。また、また全体の総合を待って論文発表するのではなく、作家や作品についての各論を積み上げることを目指す。
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