2011 Fiscal Year Research-status Report
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23720183
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Research Institution | Kagoshima Prefectural College |
Principal Investigator |
中谷 彩一郎 鹿児島県立短期大学, その他部局等, 准教授 (30527883)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | ダフニスとクロエー / 古代ギリシア恋愛小説 / 牧歌 / 受容史 / 書誌学 |
Research Abstract |
文学・文化の研究はさまざまな資料を駆使した地道な積み重ねの作業なので、実質研究資金を受け取ってから半年余りの一年目から公けにするような新たな研究成果が次々と出るものではないが、今後の具体的な研究成果発表に向けて、次のような作業を平成23年度はおこなった。 研究の基礎となるロンゴス『ダフニスとクロエー』のギリシア語原典の読み直し作業をおこなうと同時に、将来的な新訳の刊行を目的として翻訳も合わせて開始した。『ダフニスとクロエー』の日本語訳はフランス語からの重訳3点も含めれば、これまでに5点刊行されているが、現在ではどれも手に入りにくく、ギリシア語原典から翻訳された呉茂一、松平千秋による名訳も、底本が19世紀~20世紀初頭の校訂本であり、近年の新たな文献学的成果を踏まえていない。そういう意味でも、近現代の欧米文化に大きな影響を与えたこの作品の新訳が望まれる。また、翻訳作業は一言一句吟味しながらテクストを扱うため、結果的に文献学的・文学的な観点からの新たな考察につながっている。 一方、ポルトガルで2008年におこなわれた国際古代小説学会の Proceedings が現在順次刊行中であるが、そのうち Politics, Social Questions and History の巻に掲載予定の英語論文("The First Japanese Translation of Daphnis and Chloe".『ダフニスとクロエー』の矢野目源一による最初の日本語訳を扱ったもの)の最終稿を1月に提出したばかりである。2012年中には刊行される予定である。 また、学会活動としては、2011年10月15日に今後本研究の成果発表の場の一つにする予定である古典文献学研究会(於:東京大学駒場キャンパス)に参加した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成23年度は東日本大震災の影響で、研究資金が入るのが遅れただけでなく、支払いも二回に分割されたため、当初の計画通り研究を行うことが難しく、しばらく様子を見ざるをえなかった。さらに入金後、海外研修の引率などの学内業務のため、執行開始がさらに遅れてしまった。 その結果、当初計画と比べると、研究の基礎となるロンゴス『ダフニスとクロエー』ギリシア語原典の読み直し作業と国内にいながら可能な文献収集(主に理論的なものと日本語で手に入る受容研究につながる文献資料)を中心におこなうにとどまり、具体的なテクスト分析が十分には進まなかった。 一方、当初一年目の計画には入っていなかったが、矢野目源一による初めての日本語訳に関する英語論文の完成や翻訳作業など、今後の受容研究の一端となるある程度の成果は得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の柱がロンゴス『ダフニスとクロエー』のテクスト分析と受容研究である点は当初の予定通りである。テクスト分析では、『ダフニスとクロエー』のテクストを物語の流れに沿って概観しながら、ランニング・コメンタリー風に分析する。とりわけ、近年非常に洗練されたテクストであることが明らかになってきている『ダフニスとクロエー』の語りの技法に着目しながら、分析することを目指している。平成24年度中に全4巻の註釈をできるだけ形にしたい。 同時に、平成24年度と25年度は受容研究につながる海外での調査に力を注ぎ、大学の長期休業期間中に三、四週間ほどヨーロッパに滞在し、イギリスの大英図書館やフランス国立図書館など、ヨーロッパを代表する図書館で稀覯本を中心とする文献の調査・収集にあたる予定である。同時に、英国スウォンジー大学の KYKNOS 古代物語文学研究センターを訪れ、英国留学時の指導教官でもあったセンター長のジョン・モーガン教授や関係する研究者たちとの意見交換も行いたいと考えている。 そして平成25年度以降はテクスト分析の最終チェックも行ないながら、受容研究を中心に作業を進めたい。ここでは、写本や校訂本・翻訳の考察、研究史から近現代の文学作品への影響まで包括的におこなう予定である。また、特に平成25, 26年度には、国内外の学会や研究会での発表、論文の投稿も積極的に行ないたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初計画では物品費(主に書籍)40万円、旅費45万円、その他15万円となっていた。ほぼ計画通り執行予定であるが、前年度の残額約20万円とその他15万の一部を旅費に加えて、ヨーロッパの主要図書館での文献調査および研究を十分にできるようにしたい。また、秋に開催予定の古典文献学研究会にも参加できればと考えている。書籍に関しては、次年度は洋書を中心に購入する予定である。
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