2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23720183
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Research Institution | Kagoshima Prefectural College |
Principal Investigator |
中谷 彩一郎 鹿児島県立短期大学, 文学科, 准教授 (30527883)
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Keywords | ダフニスとクロエー / 古代ギリシア恋愛小説 / 牧歌 / 受容史 / 書誌学 |
Research Abstract |
前年の平成23年度から続けている『ダフニスとクロエー』の翻訳作業をほぼ終え、ランニングコメンタリー形式のテクスト分析作業を行なっている最中である。なお、前年度の1月に脱稿した、矢野目源一による初めての『ダフニスとクロエー』の日本語訳に関する英語論文が本年度内にリスボンで出版される予定だったが、論集の他の執筆者に遅れが生じているのか未刊である。 本年度はもう一つの柱である『ダフニスとクロエー』の受容に関する調査・研究のため、夏期休業期間中にフランスのパリおよび連合王国のロンドンとスウォンジーを訪れた。パリではフランス国立図書館で『ダフニスとクロエー』の最初の翻訳で、後世に大きな影響を与えたジャック・アミヨによるフランス語訳の初版(1559)および死後まもなく出版された1596年版に加え、アミヨが翻訳の際に元にした写本を調査した。さらにアミヨが活躍したフランソワ1世やアンリ2世の時代、王立図書館があったフォンテーヌブロー城を訪問し、古代ギリシア恋愛小説の壁画調査等をおこなった。連合王国ではロンドンの大英図書館で、『ダフニスとクロエー』の16~17世紀のエンジェル・デイとジョージ・ソーンリーによる英語訳と初期のギリシア語校訂本の調査をすると共に、ピエール・ロジョンのオペラ・バレ台本『ダフニスとクロエー』(1752)を調査した。世界で一~数冊しか現存しない資料の現地調査を元にして、複数の論文の構想を練ることができた。また、パリのルーヴル美術館やロンドンのウォレス・コレクション、ナショナル・ギャラリーでは『ダフニスとクロエー』の絵画・彫刻化作品の調査をおこなった。 スウォンジー大学KYKNOS古代物語文学研究センターも訪問し、大学院生時代の恩師であるジョン・モーガン教授や、イアン・ルパス博士らと研究状況やヨーロッパの研究動向等について意見交換をおこない、研究へのアドバイスを頂いた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
震災に伴う一年目の遅れとその後も学内業務の多忙さのため、遅れがまだ取り戻せないままであるが、最初から1年目は下準備に時間がかかることを見越して2、3年目に海外調査を行い、3、4年目に執筆作業や研究発表をおこなう計画を立てていたので、あと2年の間に十分に取り戻せる程度の遅れである。研究の一つ目の柱であるテクスト分析はやや遅れているが、もう一方の柱である受容研究に関しては、ヨーロッパでの調査は新たな発見も含め、今後の研究につながる成果もあり、順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画通り、ロンゴス『ダフニスとクロエー』のテクスト分析と受容研究をおこなう。テクスト分析では、『ダフニスとクロエー』を物語の流れに沿って概観しながら、ランニング・コメンタリー形式の分析を平成25年度中にほぼ完成したい。とりわけ、近年非常に洗練されたテクストであることが明らかになっている『ダフニスとクロエー』の語りの技法に着目しながら、分析をおこなう。 同時に、平成24年度につづいて平成25年度も、受容研究のために海外での調査に力を注ぐ。大学の夏期休業期間中に三週間ほどヨーロッパを訪れ、写本や稀覯本を中心とする文献の調査・収集にあたる予定である。 今後はまだ終わっていないテクスト分析を行ないながら、受容研究を中心に研究を進めたい。ここでは、写本や校訂本・翻訳の考察、研究史から近現代の文学作品への影響まで、できるだけ包括的におこなう予定である。 また、研究も3年目に入ったので、平成25, 26年度には、特に受容研究に関して研究成果を学会や研究会、あるいは論文の形で発表していきたいと考えている。現在のところ、平成25年度中に4本ほど発表する予定である。現在すでに『ダフニスとクロエー』と三島由紀夫『潮騒』に関する論文を執筆中で、つづいて昨年のヨーロッパでの調査に基づいて、ジャック・アミヨ訳の変遷、ジョゼフ・ボダン・ド・ボワモルティエのオペラ・バレ『ダフニスとクロエー』のピエール・ロジョンによる台本等に関する論考の発表を考えている。最終年度となる平成26年度は、研究成果の将来的な書籍としての出版も視野に入れて執筆作業や研究発表に集中するが、必要な場合には一週間~十日ほどの短期間だけヨーロッパを調査のため再訪する可能性も考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初計画では物品費(主に書籍)30万円、旅費45万円、その他15万円となっていたが、前年度の調査で予想外にヨーロッパへの旅費がかかったため、前年度の約20万円を残してある。最近の急速な円高もあり、繰り越した約20万円とその他15万の一部を旅費に加えて、ヨーロッパの主要図書館での文献調査および研究を十分にできるようにしたい。書籍は必要なものはかなり揃ったので、足りない部分を補いたい。
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