2011 Fiscal Year Research-status Report
日本近代文学の欧米語翻訳黎明期の総合的研究~明治・大正時代を中心に~
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23720187
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
河野 至恩 上智大学, 国際教養学部, 准教授 (60439338)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 比較文学 / 日本文学 / 翻訳論 / 海外の日本文学受容 / 文化交渉史 / 国際研究者交流 / アメリカ合衆国:ドイツ:オランダ |
Research Abstract |
明治・大正・昭和戦前期の日本近代文学の翻訳書の調査として、国際日本文化研究センター、国文学研究資料館等所蔵の資料をもとに書誌調査を行った。特に欧文(英語、フランス語、イタリア語等)の日本学書誌や日本文学研究書籍から書誌情報を収集し、書誌リストをまとめる作業を行った。この作業は次年度以降も継続する予定である。 日本近代文学の翻訳をめぐる国内の人的ネットワークの調査として、日本に長年滞在し菊池寛の作品などを英訳したグレン・ショー、二葉亭四迷『其面影』森鴎外『かのやうに』等を訳し、ハワイ大学教授(後に学長)として同大学のアジア学の基礎を築いたグレッグ・シンクレアについて調査を進めた。ショーとシンクレアは大正期の日本近代文学英訳において重要な人物であるが、その業績についての研究はほとんどない。この二人に関して、ハワイ大学図書館にてGregg M. Sinclair Papers(シンクレアの書簡・学内文書など)とGlenn Shaw Collection (ショーの蔵書)の調査を行った(2012年2月6-12日)。この調査を通し、シンクレアが自らの学者・知識人のネットワークを活用しながら、ハワイ大学東洋学研究所(1935年に設立)を拠点として日本文学作品の翻訳・研究等のアジア学の知的インフラを整えようとした状況が明らかになってきた。また、シンクレアとショーの往復書簡、シンクレアが訳した『其面影』英訳の書評などの資料も入手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
明治・大正期の日本近代文学の欧米語翻訳の出版状況、日本文学の翻訳と日本学の形成の関係についての調査は、予定通り進んでいるといえる。また、日本・海外の日本文学翻訳者・出版社のネットワークに関しては、シンクレアやショーなどについて調査し、予想以上に貴重な資料を入手することが出来た。 一方、こうした日本近代文学の欧米語翻訳の全体像を明らかにする試みに加え、この状況が日本の作家の自意識に与えた影響についての研究はまだ途上である。次年度以降に引き続き取り組んでいきたい。 こうした研究や資料収集の成果については、(当初の実施計画にあるように)今後2年間を通して論文や研究発表の形にまとめていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目となる平成24年度は、欧米における日本文学翻訳の受容に軸足を移し、欧米における日本近代文学翻訳の受容、また翻訳作品が欧米日本学における〈日本文学〉像の形成に与えた影響を、書評の調査、欧米日本学の実地調査などにより明らかにしていきたい。ヨーロッパの主要な日本学の拠点(ドイツ、オランダなど)において翻訳受容の資料収集、日本学の形成についての調査を行う予定である。 明治・大正・昭和戦前期の日本近代文学の翻訳書の調査、書誌作成については、継続して行う。 1年目の研究で、大正から昭和戦前期にかけてラフカディオ・ハーンの著作集や、ショーの日本文学翻訳などの英文書籍を継続的に出版しつづけた「北星堂」という出版社が、当時英文における日本文学・文化発信に大きな役割を果たしていたことが明らかになってきた。この北星堂の出版活動について更に調査を進めていきたい。北星堂二代目社長の中土義敬氏の蔵書調査などを行い、北星堂の日本文学翻訳の実態と、北星堂が翻訳のネットワーク作りに果たした役割について明らかにしていきたい。 ショーやシンクレアらの日本文学の翻訳者や北星堂などの出版社のネットワーク、またテクストの流通について、前年度までに入手した資料などを出発点に更に研究を進めていきたい。 また、こうした日本近代文学の翻訳が作家の自意識に与えた影響や、作家自身の翻訳活動への関わりについても更に調査を進める予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
○ヨーロッパ、北米への旅費・滞在費…欧米の日本学拠点における資料調査および現地の研究者・図書館司書の方々への聞き取り(ドイツ、オランダ、英国、米国等で調査を予定)○日本国内旅費…日本国内の資料調査、研究者との聞き取りのため(国際日本文化研究センター等を予定)○資料調査のためのコピー、消耗品等。○日本近代文学の欧米語翻訳書などの一次資料、研究書(翻訳論、海外の日本文学受容、日本学の歴史など)の購入○翻訳経費、研究補助の人件費。その他。
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