2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23720189
|
Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
廣澤 裕介 立命館大学, 文学部, 准教授 (20513188)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | 「全相平話」 / 『三国志演義』 / 『水滸伝』 / 挿絵 |
Research Abstract |
平成23年度8月中旬に、中国北京市内の国家図書館古籍部において、『水滸伝』等の版本調査をおこなった。その際に、首都師範大学主催でおこなわれた中国古典小説数字化研討会に参加し、中国や日本からの参加者の発表から、中国白話小説の諸作品の版本研究の最新の成果を知ることができた。日本国内では京都産業大学と名古屋市蓬左文庫にて『三国志演義』の周曰校諸本の調査をおこなった。また天理大学付属天理図書館には、数回足を運んで『水滸伝』の版本調査をおこなうことができた。これら23年度夏期までの調査で、『水滸伝』と『三国志演義』の挿図の分析において重要かつ初期の版本を多く目睹することができた。それぞれの作品、それぞれの版本の特徴を自らの目で確かめることができ、またいくつかの発見もあり、研究上の多くのヒントを得られた。それらの調査を踏まえて、あらためて本計画の全体像をとらえ直し、その主たる課題に取り組むためには、第一歩として作品(文字テキスト)と挿図がはじめて一体になった作品(資料)を分析する必要性を感じるに到った。よって、23年度秋以降の後半は、国立公文書館内閣文庫所蔵の「全相平話」5種の研究を開始した。日本で重要文化財に指定されている「全相平話」は、元代末期から明代初期に成立し、挿図を持った白話作品の嚆矢とされ、白話小説の発展の流れを考える上で非常に重要な資料である。成立年代が古いこの資料を分析することにより、後世の作品を研究する際のヒントが多く得られ、また問題点の整理がしやすくなると予想した。実際に内閣文庫で実物を見て調査をした結果、一般に流通している影印本では確認できない、版本としての、挿図としての特徴を確認することはできた。その成果として、24年3月24日におこなわれた中国古典小説研究会の関東例会にて「内閣文庫蔵「全相平話」の図像と形態について」と題する口頭発表をおこなった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
『水滸伝』と『三国志演義』の作品と挿図の関係を考える上で、重要な版本を数多く調査することができ、特に『三国志演義』の周曰校本の複写物などの資料も多く入手できており、それらに関する主要な問題点についておおよそ理解するに到っている。研究の初期段階がスムーズに進み、白話作品と挿図の一体化が見られる「全相平話」の研究に着手できており、本研究が扱うことを想定している内容全体の約半分の問題について具体的にイメージし、整理できている。また『全相平話』に関する従来の意見とは異なる、新しい意見を提出できる可能性も見えつつあり、その論文作成にあたっているところである。
|
Strategy for Future Research Activity |
24年度には、まず23年度末におこなった口頭発表「内閣文庫蔵「全相平話」の図像と形態について」の内容を論文として発表し、白話作品と挿絵が一体になった「全相平話」の成立について明らかにしたい。また『三国志演義』の、特に周曰校諸本に関する研究を進めてゆきたい。これまで周曰校本と呼ばれてきた一群の版本は、実は3種のエディッションがあることが近年の研究成果として示され、本研究の23年度前期の調査でもそれぞれの種類が挿図と独自の関係を持っていることが確認できた。そしてその3種類のうち最も成立が早いとされるのがアメリカのイエール大学に所蔵される版本であり、その調査を本年度夏期におこなう予定である。そして周曰校諸本と挿図の関係だけでなく、昨年度に着手できなかった台湾に所蔵される『李卓吾先生批評三国志』にも調査の手を伸ばし、歴代の『三国志演義』の出版と挿図に関わる関係性を明らかにしてゆき、口頭発表や論文の執筆をおこないたい。昨年度、海外での研究発表を予定していたが、基礎研究の充実を図って版本の調査を優先したために取りやめたものがあった。そのため生じた未使用額を本年度の研究成果の公開に使用する予定である。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
23年度と同様研究のための物品(書籍・資料購入費)と調査のための旅費が多くを占める予定である。主な訪問先と使途は、国立公文書館内閣文庫所蔵「全相平話」5種についての再調査および関連書籍の購入費、アメリカ・イエール大学所蔵周曰校本『三国志演義』および関連する版本の調査費・旅費等、台湾・国家図書館所蔵『李卓吾先生批評三国志』の調査費、旅費等。また、これら調査に必要な撮影機材などの購入費、研究成果の翻訳費用などに使用する予定である。特に海外での調査を成功させるべく、万全の準備のために研究費を使ってゆきたい。
|
Research Products
(1 results)