2011 Fiscal Year Research-status Report
意味的優勢素とその言語相対的処理をめぐる日露対照研究
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23720191
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
金子 百合子 岩手大学, 人文社会科学部, 准教授 (80527135)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | ロシア語 / 日本語 / アスペクト / 対照言語学 / 意味的優勢素 / 言語的世界像 |
Research Abstract |
本研究の目的は,時間内で推移する動的事象の解釈及び記述の際にロシア語にとって本質的に重要と考えられる意味的優勢素「限界」の,言語を貫くその体系性を,異なる意味的優勢素「安定」を持つ日本語と対照させながら,構築することにある。初年度は文学作品とその翻訳による言語資料をデータベース化することが主な課題であったが、並行して各言語に特徴的な言語相対的処理の仕方についても検討した(以下)。 ロシア語と日本語の語りのテクストを用い、そこに現れる各言語の動詞アスペクトの振舞いを比較すると、原作と翻訳の間で異なる記述の仕方を採用する場合があり、それは各言語の優勢素の影響下に、記述される状況が再解釈される例と考えることができる。特に(a)「個別出来事の動態的推移」の記述を好むロシア語と「安定的状況(状態・過程)の静態的存在」という形で複合事態を記述する日本語;(b)「状況の現象的把握」を好む日本語と「動作主による目的志向動作」という形で状況を把握するロシア語、という二つの傾向が顕著である。(a)の例:私をきつく抱きしめたまま目を閉じていた.(山田詠美);On krepko stisnul[PF] menya i zakryl[PF] glaza. (G. Dutkina訳); (b)の例:「堀口君,一緒に来てくれ」香嶋は席から立ち上った.堀口を連れて,香嶋が行ったのは,小田切グロサリー部長の席だった.(安土敏); - Vot shto, Horiguti, idemte-ka so mnoy, - skazal[PF] Kodima, podnimayas' s kresla. Vmeste s Horiguti on napravilsya [PF] k nachal'niku sektora bakaleynykh tovarov Odagiri (A.Dolin訳)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の主な課題は文学作品とその翻訳のデータベース化であった。データベースに入る作品数及びまとまりのあるテクストの総数も増加し、全般的なテクスト構成を分析するにはほぼ足りるだけの言語資料がそろっている。だが、個別具体的な問題点を検討するにあたって必要となる、限定された資料は十分と言えるだけ収集できていない場合があることがわかった。例えば、ある特定の構文や動詞語彙(グループ)に限定して検索する場合、事例が少ないことがある。それらの扱いについては、次年度に予定されている言語資料の比較検討の指針を再検討しながら、効率よく言語資料のデータベース化をさらに進める。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度に引き続き、言語資料のデータベース化を進め、並行してテクスト資料の比較検討を開始する。ロシア語の意味的優勢素「限界」が文学作品においてどのように用いられているのか、の個々の作品の場合を集約し、その特徴を明らかにする。各言語のテクスト構造に言語相対的な記述の傾向が見られることは初年度にも提示したが、それらをより吟味し、動的事象の「限界」を示すような語結合や統語構造など、その表現の多様性をまとめる。ロシア語原作の文学作品を取り上げ、そのテクスト全体に見られる言語構造のタイプについて検討し、日本語訳と照らし合わせることで、各言語の優勢な意味野、劣勢な意味野ならびに異なる意味的優勢素が接触する際の言語処理の実態を明らかにする。その際、翻訳の意識的な言語処理と関連する諸問題について、評価の高い日⇔露翻訳者らにアンケート調査を予定している。 資料の整理と分析を進めながら、研究経過の報告や研究成果の発表を、国内外の研究会・シンポジウム等で行うことに加えて,個別に得られた研究成果を総合した全体像を論文にまとめ発表する.その後,体系性の構築を進めるという課題の達成度を総体的に評価し,やり残した課題について確認する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費は、申請書に記したとおり、国内外の研究関係書籍の購入、英文もしくは露文で書かれた論文の校正費用、ならびに、研究成果の口頭発表(海外)に充てられる。
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