2012 Fiscal Year Research-status Report
文処理における韻律と情報構造のインターフェイスについて
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23720196
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
小泉 有紀子 山形大学, 基盤教育院, 講師 (40551536)
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Keywords | 心理言語学 / 文処理 / 国際情報交換(アメリカ・スペイン) / 否定 / 第二言語習得 / 英語 / 日本語 / スペイン語 |
Research Abstract |
統語や韻律情報が文理解に果たす普遍的な役割とはどういうものであり、また各言語によりどのような多様性が見られるのかを本事業では探求している。H24年度は、文献研究や、講演や打ち合わせを通しての情報交換の他に、本事業の主目的である、さまざまな言語における処理の傾向を調べること、また、英語において行ったこれまでの研究成果が、英語を第二言語として学習する人の場合はどうなのかを調べ、研究費を使用して以下に示す大変有意義な成果を上げた。 1.日本人英語学習者を対象とした文処理実験のデータ収集:英語ではnot-because構文が構造的に曖昧であるのに対し、日本語においては(2)のように作用域を「のでは」などで限定する特徴がある。 (1) 純は [怒っていたから帰らなかった](2) 純は [怒っていたから帰った] のではない 母語話者の観察によれば、日本人の英語学習プロセスにおいて、否定と焦点化要素に関する構文を明示的に指導されることはほとんどなく、母語である日本語において類似の曖昧構文に出会うこともない。もしそうであるならば、日本人英語学習者はこの曖昧構文をどのような方略で処理するのだろうか。 このテーマに基づいて,データ収集を開始した。実験デザインや内容はパイロット調査を基にした検討の上、英語母語話者に使用したものをほぼ変えずに行うことになった。 2.日本語の類似構文の研究と実験構築の開始:文献研究や国内外への出張打ち合わせ、招待講演でのフィードバックを通じ、日本語における研究を本格化させることができた。特に、「真理子は恵子のように頭がよくない」というような「~のように」節と否定「ない」の作用域の相互関係に関する構文について日本語母語話者の直感を得られた。この構文の処理に関する研究はいままでなされておらず、25年度はこの構文を中心として実験構築を進めていくことが決まった意義は大きい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2年目である25年度も、科研費を使用して国内外の講演や研究協力者との打ち合わせができ、有意義な年となった。 24年度は、日本人英語学習者、とくに上級の英語学習者を対象としたパイロット調査を完了したことの意義が大きい。この構文の英語における文処理実験の刺激文は内容的にも分量的にも英語母語話者にさえ多分に集中力が求められるため、日本人英語学習者が集中力を切らせることなく同じ分量や複雑度を持つ実験文を読み、質疑応答タスクを正確に遂行することができるのか、またそのような被験者を十分な数集めることが可能かという懸念があった。しかし英語の上級学習者の多い研究機関所属の学生から協力を得ることにより、この問題は解決できそうである。 上の理由によりデータ収集はは予想以上の時間がかかっている。25年度も引き続きたくさんの被験者を集める必要が出て来ているが、引き続き収集を行い、まもなく十分なデータが得られる予定である。 また、年度当初の計画の変更を余儀なくされた点もある。当初は、在フランスの研究者との国際協力体制を構築し、実験準備・遂行を予定していたが、当該研究者とのコミュニケーションに甚大な遅滞が見られ、フランス出張を通じての打ち合わせや実験構築が困難な状態になってしまった。今後も協力体制が迅速に構築できるかどうか不明瞭なため、フランス語における類似構文の処理に関する実験は延期することとなった。そのかわりとして、同じロマンス語であるスペイン語における実験を別な研究者と行うことが24年度末のニューヨーク出張で決定した。この研究者とは密接なコミュニケーションがはかれており、若干の方針変更はあったものの、25年度の計画には明るい見通しが立った。 24年度はこれらの理由から「やや遅れている」との点検結果としたが、問題の解決をみたので、25年度は遅れを取り戻すべくさらに充実した研究活動を目指したい。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年である25年度は以下を計画している。 1. L2英語学習者における実験データ収集完了と分析:日本語のような言語を母語にもつ被験者はどのような方略を用いて複雑な曖昧構造を理解するのかについて実験結果をまとめる。本研究計画の間接的目標の一つである、英語教育、指導法への応用へつなげる一歩としたい。英語力が上級レベルの被験者のみのデータ収集になるため、研究協力者の所属機関へ出張しデータ収集を行っているが、現時点で30人のデータが収集完了しており、早い段階で収集の終了、データ分析を行うことができると予想される。年度中に学会での成果発表も予定している。 2.日本語の副詞句と否定の作用域に関する曖昧構造処理について:「美香は ユキのように 頭がよくない」文において、否定の作用域に副詞句が入るかどうかについて2つの解釈が可能であるが、直感によれば、二つの読みは発話では韻律的に異なる特性と関連する。実験文を意味的にどちらかの解釈にし(作用域条件)、2種類の韻律(韻律条件)をクロス提示することで、否定の作用域に副詞句が入る構造の容認可能性を調査する。現在、実験刺激文作成と文献研究を行っている。複雑な構文を扱うため、刺激文作成作用にある程度時間がかかることが予測されるが、年度内の実験データ収集完了をめざす。 3.スペイン語における類似構文の処理に関する実験:スペイン語では否定と焦点の作用域構文の処理プロセスの研究はまだなされていないが、否定の作用域に副詞節が含まれるとき、副詞節内部の動詞は接続法となるということが母語話者の報告で分かっている。動詞の接続法を用いて作用域の曖昧さをはっきりとなくすことができるため、どちらの構造が好まれるかを調べることは比較的容易であると考えられる。実験構築と国際協力体制の構築も推進する。 研究成果はまとまり次第順次学会などで発表していく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
現時点における25年度の研究費使用予定は推進方策に述べた順に以下の通りである。 1. L2英語学習者における実験データ収集完了と分析:24年度より引き続き、日本人の英語学習者を対象としてデータ収集を行う。研究協力への謝金を引き続き科研費より支払う予定である。また、被験者の提供をお願いしている協力者より要請があった場合は、備品等の購入も必要である。年度中に学会での成果発表も予定している。 2.日本語の副詞句と否定の作用域に関する曖昧構造処理について:日本語学と日本語の文処理に関する先行研究の調査がさらに必要であるため、和洋書の購入が必要となることが予想される。また、実験構築への協力者との打ち合わせや、学会における情報交換を目的とした国内外出張も予定している。 3.スペイン語における類似構文の処理に関する実験:スペイン語の実験構築にあたっては、代表者のスペイン語学・スペイン語文処理研究に関する文献研究のほかに、英語において実施した刺激文を採用しと意味的に等価な文を当該言語において作成する必要があるが、これにあたっての協力をスペイン語母語話者に依頼し、情報提供に関する謝金を支出する必要があると予想される。これに伴う打ち合わせ等を目的とした出張を予定している。 その他成果の発表に伴う出張などの経費としても適宜使用を予定している。
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