2012 Fiscal Year Research-status Report
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23720198
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
守田 貴弘 東京大学, 総合文化研究科, 助教 (00588238)
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Keywords | 言語学 / 類型論 / 使役移動 / 分類 |
Research Abstract |
本年度の研究成果は次の3点である.まず,データに関して追加実験を行い,新たに13名のフランス語話者からデータを収集した.これにより,前年度の成果である26名との比較において信頼性を高める効果が見込まれる.26名についてはタグ付け等の分析も完了している.また日本語との対照について,日本語話者7名からもデータを収集しており,共同研究者(国立国語研究所)による日本語データと合わせて,対照研究および類型論的研究に向けて基盤を整えた. 第2に,直示表現の研究について,認知言語学における提言を行った.従来,「行く」や「来る」といった話者を中心とした方向認識を表す動詞について,これらが必須である日本語は主観的な言語であり,必須でないフランス語は客観的な言語であるという分類が行われることがあった.だが,動詞に限定しない話者を中心とした表現に着目し,実験結果の音声データを分析したところ,フランス語においても動詞以外の要素によって直示方向が表現される傾向が見出された.つまり,直示「動詞」の使用の義務性は,話者の直示方向の認識に重大な影響は与えていないという結果である. 最後に,移動表現における様態表現と認知コストの関係についても一定の成果を見た.認知言語学では,文を構成する必須要素である動詞および動詞周辺要素で表される要素は背景化されており,認知コストも低いのに対し,副詞的要素は文の任意要素であり,表現するにはコストが高いとされていた.フランス語のジェロンディフに着目したとき,動詞に近接し,ほぼ複雑述語を形成していると考えられる位置(低コスト)と,典型的な副詞的位置(高コスト)で現れることがあるが,データでは高コストの位置で現れることが多いことが明らかとなった.各言語により,ある要素を表現するデフォルトの位置があるため,統語構造によって認知構造を直接的に説明できないという結果となった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初,使役移動を自律移動との発展として研究し,研究が不十分であった使役移動の類型論に資する成果を発表することを目標としていたが,(1)研究の基礎となるべき自律移動の類型論的研究に大きな問題があること,(2)言語学における分類という行為そのものに関する問題があることが明らかとなった.そのため,平成24年度までの研究では,直示や様態といった,今までの類型論においては周辺的だと考えられていた要素の言語表現に関する研究に時間を費し,また分類という行為そのものの妥当性を科学哲学的に研究するということを行った. 以上より,平成24年度までに予定していた範囲としてはやや遅れているものの,より基礎的な研究で成果を上げており,当初の目的に関して確実な結果へと結びつく研究を行ったという点でおおむね順調に進展しているといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度の方針として3点を提示する.まず,使役移動に関して,自律移動の類型論との一貫性のある形で研究を進めることが妥当であると考えられる.したがって,進行中の直示表現および様態表現に関する研究の完成を優先させる.また並行して,自律移動の研究で用いた動詞分類の基準と整合する形で,使役移動に用いられる動詞の分類を完成させる.既に扱うべき動詞の選定は完了しているため,自律移動で用いた基準を適用・テストし,動詞の分類を公表することを目標とする. 次に,実験ビデオを用いたデータのうち,使役移動については分析が未だ不十分な状態にある.自律移動で用いたタグ付けの方法を発展させ,使役移動の表現パタンに関する記述的傾向を明らかにすることを目標とする.現在までに,フランス語の使役移動に関する研究はまったく公表されていないため,動詞の分類および表現パタンの記述的研究だけでも当初の目標にとって非常に重要な成果となると考えられる, 最後に,分類という行為に関する科学哲学的研究(現状の類型論的研究を推進することの意義に関わる)も継続し,基礎的文献を踏まえて,実験結果に基づく現在の研究を補強するための議論も継続して行う.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究期間中に所属研究機関が変わったため,研究室の整備にコンピュータ等の機材を購入する費用が必要となる.また,様態表現に関する言語表現と認知的コストの関係について,カナダで行われる国際認知言語学会での発表が決定しているため,参加費および旅費・滞在費等が必要である.また,公表を計画している論文のうち,2本は英語での執筆を予定しているため校正謝金が必要となり,さらに追加実験データの入力謝金を予定している.
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