2011 Fiscal Year Research-status Report
自然言語におけるスケール性の意味・機能上の役割:形式意味論・語用論的アプローチ
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23720204
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
澤田 治 三重大学, 人文学部, 講師 (40598083)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | スケール / 意味論 / 語用論 / 程度性 / 多次元性 / 慣習的推意 / 指小辞 / モーダル指示詞 |
Research Abstract |
本研究の目的は、自然言語におけるスケール性の意味・機能上の役割について形式意味論・語用論の観点から考察することである。本年度は、(i) 語用論レベルにおけるスケール構造はどれほど複雑(体系的)であるのか、また、(ii)談話レベルにおいてスケールという概念はどのような役割を果たしているのか、といった問題について「日本語の指小辞シフト」、および「日本語モーダル指示詞」に焦点を当てて考察した。研究内容の概要は以下の通りである。[1] 指小辞シフト本研究では、日本語の「指小シフト」の意味・機能について考察した。日本語では、ある単語内の子音がsの代わりにchと発音されると、発話のモードが大きく変化する(例:「です」→「でちゅ」)。本研究では、日本語の「指小化シフト」の意味について、とりわけ以下の3点を明らかにした。(a)日本語の指小辞シフトは、話し手を(非現実的な形で)発達度のスケール上で下位に位置づける機能を持ち、それが発話モードの切り替えの要因となっている。(b) 指小辞の意味には、個体そのものを指小化する場合と、話し手自身を指小化する場合の2つのタイプがあり、日本語の指小辞シフトは(基本的に)後者に対応する。(c) 「です」が「でちゅ」にシフト可能であるという事実は、慣習的推意同士が合成的に結びつくことができることを意味し、語用論レベルにおいても合成的な演算システムが存在することを強く示唆している。[2] 日本語モーダル指示詞のスケール的意味本研究では、澤田淳氏との共同研究として、モーダル性を帯びた日本語指示詞の「あの」(例:「あの太郎が負けた」)の意味について考察した。具体的には、モーダル指示詞の「あの」は、他の指示詞用法と異なり、「ターゲットが関わる当該の事象(命題)は成立しそうにない」という発話状況に対する話し手の認識的態度が関わっていることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
昨年度は主に、「日本語の指小詞シフト」と「モーダル指示詞」の意味に焦点を当て、自然言語のスケール性の役割について考察した。これまでの研究により、(i)スケール性は程度副詞や比較文などのみならず、音韻現象や指示詞などにも関わった遍在的な概念であり、また、(ii)スケール性は個体の程度性を測るのみならず、発話モードや話し手の発話状況に対する態度を伝達する際にも極めて重要な役割を果たしていることが明らかになった。以上の点は、今後、自然言語におけるスケール性の意味・機能上の役割をさらに考察していく際の大きな指針・土台となると考えられる。今後は、談話レベルにおけるスケール構造、およびスケール性とコンテクスト可変性の関係についてさらに考察を深め、形式意味論・形式語用論の観点から説明を与えることを目標に置く。・研究成果指小辞に関する研究内容の一部は、North East Linguistic Society 42 (2011)、the Prosody-Discourse Interface IDP、および日本語用論学会(2011年大会)で発表した。また、モーダル指示詞に関する研究については、The 21st Japanese/Korean Linguistics Conferenceで口頭発表を行った(澤田淳氏との共同研究)。
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Strategy for Future Research Activity |
・今年度は、前年度に行った「日本語のモーダル指示詞」および「指小辞シフト」についての研究を引き続き行う。分析・内容をさらに深め、論文としてまとめる。また、本年度は、客観的な(真理条件的な)意味をもったスケール表現が主観的な(非真理条件的な)意味も表わすこともできるというスケール表現の「2重使用現象」に焦点を当て、(i)真理条件的なスケール的意味と非真理条件的なスケール的意味の間の共通点と相違点とは何か、また、(ii)スケール性の談話レベルでの役割とは何かという問題についても考察する。具体的には、程度副詞、少量表現、比較構文、不正確表現に焦点を当てる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
・旅費研究で生み出された新たな知見・成果を国内外の研究会、学会で発表することを試みる。研究に関して国内外の専門家と議論を行うことは非常に重要であると思われる。旅費に対する予算を大目に設定し、有意義に研究費を使いたい。また前年度学会発表として使用する予定であった旅費が余ったため、未使用分の研究費についても、有効に使いたい。・物品費専門書やコーパスデータなど研究に必要な資料・論文をそろえ、研究環境を整える。また、パソコン関係の機器についても必要なものは早めに揃える。
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