2012 Fiscal Year Research-status Report
自然言語におけるスケール性の意味・機能上の役割:形式意味論・語用論的アプローチ
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23720204
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
澤田 治 三重大学, 人文学部, 准教授 (40598083)
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Keywords | scalarity / conventional implicature / 意味論 / 語用論 / 多次元性 |
Research Abstract |
本研究の目的は、自然言語におけるスケール性の意味・機能上の役割について形式意味論・語用論の観点から考察することである。2012年度は、日本語の程度副詞「少し」、「ちょっと」、および比較の副詞「もっと」に焦点を当て、語用論レベルにおけるスケール構造について考察した。具体的な研究内容は以下の通りである。 1. 「すこし」と「ちょっと」の意味について:「ちょっと」と「少し」には、程度述語を修飾し、個体の程度を計量する用法がある(例:この竿は{ちょっと/少し}曲がっている)。しかしながら、「ちょっと」には、発話行為の力(force)を弱める用法もある(例: {ちょっと/*少し}それはできません)。本研究では、「少し」の意味的多様性を意味論・語用論のインターフェースの観点から分析し、意味論レベルのスケール的意味と語用論レベルのスケール的意味の間の共通点と相違点をモデル・理論の観点から明らかにした。また、「ちょっと」の意味拡張の背後には、「意味の不正確性」という概念が深く関わっていることを論証した。 2. 「もっと」の語用論的意味・機能について:日本語の副詞「もっと」には、2つの個体を比較する「程度用法」(例:太郎は花子よりももっと賢い)と「現状に対する話し手の否定的態度」を表す「否定用法」(例:この店のケーキはもっとおいしかったよね)があり、両者は意味的に異なった特性を有している。 本研究では、否定の「もっと」は想定状況と発話状況との間のギャップを計量する比較の形態素であり、両用法は「比較」の概念を用いて統一的に説明可能であることを論証した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2011年度は、「日本語の指小詞シフト」および「モーダル指示詞」の意味に焦点を当て、語用論レベルにおけるスケール性の役割について考察した。また、2012年度は、「少し・ちょっと」と程度副詞「もっと」の意味・機能に焦点を当て、意味論レベルにおけるスケール構造と語用論レベルにおけるスケール構造の共通点と相違点を考察した。 これまでの研究により、スケール性は、ポライトネス(丁寧さ)、発話モード、発話内容の優先性(情報管理)、発話状況の説明など、会話の「意味伝達レベル」に関わる意味においても重要な役割を果たしており、(個体の程度性を問題とする)意味論レベルのスケール構造は語用論(談話)レベルにまで拡張されているということが明らかになってきた。本年度は、(i) 語用論レベルにおけるスケール構造はどれほど複雑(体系的)であるのか、また、(ii)意味論レベルから談話レベルへの拡張の背後にはどのような要因が関わっているのか、という問題について考察したい。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は本プロジェクトの最終年度となっている。今年度はこれまでの研究の成果をまとめ、ジャーナルに投稿することを目指す。現在、「少し・ちょっとの意味的多様性」、「「もっと」の感情表出性とスケール構造」、「日本語のモーダル指示詞の意味・機能」に関する論文を準備している。また、「指小辞シフト」についての研究も引き続き行い、国内外の学会で発表することを目指す。 また、本年度は、個々の現象のみならず、スケール現象全体を視野に入れ、語用論レベルにおけるスケール現象が現代の言語理論(とりわけ意味論、語用論)に対しどのようなことを示唆しているのかという問題を考察する。本研究の成果を一冊の本として出版できるよう準備を進めたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
引き続き、研究で生み出された新たな知見・成果を国内外の研究会、学会で積極的に発表することを試みる。様々な研究者と交流する機会が持てるよう、旅費に対する割合を大目に設定する。 ・物品費 専門書やコーパスデータなど研究に必要な資料・論文をそろえ、研究環境を整える。また、パソコン関係の機器についても必要なものは早めに揃える。
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