2012 Fiscal Year Research-status Report
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23720215
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
千葉 謙悟 中央大学, 経済学部, 准教授 (70386564)
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Keywords | 湖北方言 / 音韻史 |
Research Abstract |
平成24年度は、研究計画の段階では、考えられる資料としてDe NinoのPiccolo Vocabulario Cinese-Italiano(1925)やLandiのPiccolo Vocabulario Italiano-Cinese (1939)などを挙げた。いずれもイタリア人による中国語-イタリア語の対訳辞書であり、漢字に振られたローマ字標音から音韻を分析することが可能である。 しかし研究の途中William Scarboroughの『諺語叢話 A Collection of Chinese Proverbs』Shanghai: American Presbyterian Mission Press (1875)を入手し、この資料の分析を優先することとした。理由は1875年という、上述の資料よりかなり早い段階の文献を分析することで19世紀後半の湖北方言の状況がより精確に浮かび上がると判断したためである。この資料は中国語の各種ことわざに漢口方言(Hankow Dialect)によるローマ字標音を加えたものであり、ウェイド式を多少改めた正書法を採用している。全465ページ、総計2720のことわざを収録するが、ここに現れたローマ字標音は19世紀の漢口音を知る上で豊富な資料を提供してくれる。「漢口」と基礎方言を明示している点も貴重である。 また、すでに筆者が分析した『三字経』(1869)と年代も近く、それと対比することで『三字経』の湖北方言資料としての位置もより明確にすることができるだろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までに『漢音集字』および『諺語叢話』の分析を進め、成果公表の準備をしている。初版の事情により公表が遅れているが、2013年度中に公刊できる見込みであることから研究が特に遅延しているとは考えない。 2013年度には、「今後の研究の推進方策」に記述したとおり、これまでの成果を総合し、かつ公になっている現代語についての成果(例えば趙元任等編『湖北方言調査報告』(1948)、李栄主編『武漢方言詞典』(1995)など)と対照させることで、現代につながる近200年の湖北方言の変化を捉えたい。 本研究の目標は湖北方言音韻史の再構にあることから、その作業が順調に進んでいると見込まれるため、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
この年は研究計画の最終年度であるため前2年の成果を総合して湖北方言音韻史の構築を図る。近200年にわたる英語資料とイタリア語資料を分析し積み重ねることにより、かなり精確な音韻史の再構が可能になると期待される。尖音・団音の口蓋化の順序及びその時期、入声の消失年代、流摂明母と通摂明母入声との韻母合流現象など、相当な細部にわたって明らかにすることができるであろう。 同時に、すでに公になっている現代語についての成果(例えば趙元任等編『湖北方言調査報告』(1948)、李栄主編『武漢方言詞典』(1995)など)と対照させることで、現代につながる変化をも捉えたい。 また、前2年に収集しきれなかった資料、例えば『漢音集字 Hankow Syllabary with references to Giles' Dictionary』(Hankow: N.B.S.S.Mission Press)の初版(1899)などの捜索も続けたい。ただ、全体としては音韻史再構の作業を優先する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費に繰り越しが発生した要因の多くは円高である。資料調査の際、予想外の円高によって旅費が予算よりも少なくなったことが大きい。 2013年度は5月現在円安傾向にあることから、調査・研究成果報告の旅費は設定した予算に相当する額でおさまるだろう。繰り越した研究費は資料の収集にあてる。最近中国では大型の資料集の刊行が相次ぎ、研究の上では非常な便をもたらしつつあるものの、円安傾向もあってその購入費は高騰している。そうした重要資料を購入する予定である。
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