2012 Fiscal Year Research-status Report
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23720221
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
澤田 淳 青山学院大学, 文学部, 准教授 (80589804)
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Keywords | 話者指向性 / 慣習的推意 / ダイクシス / 直示 / 意味論 / 語用論 |
Research Abstract |
本年度は、前年度に引き続き、ダイクシスと慣習的推意に関する一般的・理論的な問題及び、個別的・具体的な問題について考察を進めた。 ダイクシスについては、主に、指示詞と直示的移動動詞についての分析を行った。 指示詞については、話し手が手にしている対象を遠称指示詞で指示する英語thatの予想外の運用に焦点を当て、その運用の背後にある語用論的なメカニズムを探った。問題の遠称指示詞のデータは、近年の形式意味論・形式語用論において理論的焦点の一つとなっている「指標詞シフト」の観点から捉えた場合、理論的に重要なデータとなり得るものである。 直示的移動動詞については、英語come/goの分布関係、さらには、直示的移動動詞の言語間での分布関係の違いを捉えるためには、直示的中心のメンバーを均質的ではなく、階層的に捉えた「直示的中心の階層スケール」という分析視点の導入が不可欠であることを論じた。ここでの研究は、Fillmoreのcome/goの一連の古典的研究をさらに発展させたものであり、また、幾つかの新たな事実や分析視点が提示できたといえる。 慣習的推意については、澤田治氏(三重大学)との共同研究の形で、指示詞を伴う文において、可能性に関わるモーダルな意味が推意される点に着目し、そのようなモーダルな意味がどのようなメカニズムによって導出されるのかについて、意味論と語用論のインターフェースの観点から考察した。ここでは、モーダル指示詞が慣習的推意の次元の意味を表すことを示すと共に、モーダル指示詞が統語的には名詞句のみを修飾するにも関わらず、意味的には名詞句を含めた命題全体の成立可能性を計算に入れるという形式と意味の興味深いミスマッチを引き起こす現象であることを論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね順調に研究が進んでいるといえる。とくに、言語事実の面において、従来、あまり注意の払われてこなかった現象にも光を当てた研究を進めることができており、現象面においては当初の研究計画よりも、研究のスコープが広がっているといえる。ただし、モーダル的意味や指標詞シフトのメカニズムの形式化など、理論的な形式化については詰めるべき課題が幾つかあり、この点については、次年度、さらに考察を深めていく必要があるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度も、慣習的推意とダイクシスについて、理論と記述の両面での分析のより一層の深化を図りたいと考えている。とくに、話者指向性(ないしは、話者の視点)が深く関与する敬語論や人称表現などの言語現象や空間・時間語彙などにも研究のスコープを広げていくと同時に、一方で、理論的な貢献も視野に入れた研究を進めていきたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費の主な対象としては、(1)国内・国外の学会や研究会での発表の際の旅費、(2)本研究課題に関わる言語学関連の書籍等の購入、等が挙げられる。 学会の出張旅費については、現在の時点で決定しているものでは、スイスのジュネーブで開催される「国際言語学者会議((The International Congress of Linguists)」(7月21日から28日)への参加費用が挙げられる。
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Research Products
(8 results)