2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23720229
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
衣畑 智秀 福岡大学, 人文学部, 講師 (80551928)
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Keywords | 疑問文 / 日本語史 / 間接疑問 / 直接疑問 / 琉球語 |
Research Abstract |
本研究は、日本語史の記述から一般言語学への貢献を目的としている。日本語史の記述としては、得られたデータを客観的な基準で分類し、今後の日本語史研究でも利用できるようなデータベースの公開を目指している。また、言語学的な貢献としては、琉球語との 対照も行い、歴史変化を形式の交替としてではなく、話者の文法知識の再編として説明する。 このような目的のもと、今年度は、昨年度に引き続き、疑問文のデータベース化及び琉球語宮古島北部方言の調査を行った。疑問文のデータベース化については、大学院生をアルバイタとして雇い、室町時代以降の資料に見られる疑問文について、助詞の有無、構文的位置、疑問詞の有無などを入力したデータを作成した。宮古島北部方言の調査については、動詞の活用や談話のテキスト化といった基礎的な調査とともに、狩俣集落において、疑問文の調査も行った。これらのデータは、申請者の方で整理し、順次公開していく予定である。 今年度の成果の公開としては、三本の論文公刊と一件の学会講演がある。論文のうち二本は昨年度に行った学会発表が論文として刊行されたものである。この中で特筆すべきは、本研究課題の主要テーマの一つである、間接疑問文の歴史に関する考察が、Journal of Pragmaticsに掲載されたことである。この論文では、カによる間接疑問文の歴史変化を詳細に記述し、間接疑問文は、当初「私は誰が来るか知らない」のような、<話し手の>不確定性を表すもののみ見られたが、江戸後期から明治期になると<話し手の>不確定性を表さない例(「私は誰が来るか知っている」)が見られるようになることを示した。これは「主観化」と呼ばれる一般言語学的な変化の方向に反するものであり、日本語史のデータそのものから一般言語学への貢献を目指す本研究の目的が一つ達せられたと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、不定、例示のデータベース化を目標にしていたが、昨年度、直接疑問文のデータ量を増やしたため、今年度も直接疑問文のデータベース化を行った。直接疑問文のデータベース化については、順調に進行し、25年度中には、データの公開が可能になると思われる。また、琉球語宮古島狩俣方言の調査については、全体的な文法の記述が終わり、25年度に成果を公開する。成果の公開についても、二本の論文と学会発表を目標としていたが、今年度は、三本の論文を公刊することができた。よって、全体としては、順調に進んでいると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
25年度は、研究計画の最終年度となるため、まず、直接疑問文のデータベース化を完成させる。また、それに基づいて、直接疑問文の歴史に関する論文を執筆する。特に、論文執筆にさいしては、奈良時代から室町時代の疑問文の歴史について、肯否疑問と疑問詞疑問の棲み分けという変化が強く働いていたことを示し、これまで説明が与えられなかった平安時代の疑問文のヤとカの振る舞いについても歴史的な説明ができることを示す。 また、それとともに、琉球語宮古島方言についても、直接疑問文及び間接疑問文について、成果をまとめる予定である。特に、間接疑問文については、昨年度、間接疑問文の歴史についての研究を公開することができたので、それと宮古島方言の間接疑問文を比較・対照し、間接疑問文形成の変化の性質について明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
23年度に、202059円の繰越金が発生したため、今年度も9473円の繰越金が発生した。しかし、大旨順調に予算を使用していると言える。25年度に必要となる図書の購入に使用する予定である。 その他の使用内訳としては、調査費に45万円、調査用機材10万円、図書費に25万円、データ入力アルバイタの雇い入れに、10万円を予定している。以上で909473円の予算を計上する。
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