2011 Fiscal Year Research-status Report
用法基盤モデルに基づく前置詞の文法・談話機能の研究:文法化と意味拡張の認知的基盤
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23720244
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
大谷 直輝 埼玉大学, 英語教育開発センター, 助教 (50549996)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 認知言語学 / 談話・機能言語学 / 前置詞 / 多義性 / コーパス言語学 |
Research Abstract |
本研究は、学際的な視点を持ちながら、英語の前置詞が持つ様々な統語的・意味的・談話的特徴を体系的に記述し、それらを動機づける基盤を考察するというものである。本年度は、研究計画の一年目である。そのため、研究計画を遂行するための方法論的な基盤を固めると共に、前置詞の文法機能と談話機能の考察を行った。方法論の面では、日本英語コーパス学会の東部支部で、「量」ではなく「文脈」を重視した新しいコーパス研究の方法論を提唱するシンポジウムを主催して、文脈的な要素を利用した言語研究を具体的に紹介した。前置詞の文法機能と談話機能に関しては、前置詞のoverとunderの非対称的な意味拡張に注目しながら、underが持つ、条件法の帰結節を導く談話機能の認知的な基盤を分析し、日本言語学会のジャーナル『言語研究』に論文を掲載した。 また、現在、本研究の視点に立ったCALLの教材を作成中であるが、作成方法をまとめ、『最新言語理論を英語教育に活用する』に論文「言語理論を生かしたCALLのコンテンツ開発」を掲載した。 本研究の理論的背景となる認知言語学に関しては、認知文法論の最新の入門書であるRonald Langacker著のCognitive Grammar: A Basic Introductionの翻訳(邦題:「認知文法序説」)や、多義性に関する最新の知見をまとめたVyvyan Evans著のHow words mean: Lexical Concepts, Cognitive Models, and Meaning Constructionの書評を通じて、従来の認知言語学をより深く理解することに努め、談話的な視点を取り入れた認知的な研究を行う上での基礎を築いた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、一年目の計画として、(1)コーパスの整備、(2)コーディング手法の精緻化、(3)前置詞の体系的記述という、三点の具体的な目標を挙げた。この三点の計画はおおむね順調に進展している。このうち、特に(2)のコーディング手法の精緻化に関しては、日本コーパス学会東支部主催のシンポジウムを代表者として企画し、文脈を重視した言語コーパスの研究方法に関する発表を行った。ここでは、特に、独自のコーディングに基づくコーパス分析方法を紹介した。(3)の前置詞の体系的記述に関しては、前置詞の持つ機能を、文法機能、談話機能、直示的機能に分類したリストを作成した。前置詞の持つ機能とその基盤に関する研究の成果は、平成24年度に公開する予定である。最後に、(3)に関しては、これまでと同様に、British National Corpus、Brown Corpus、Frown Corpus、LOB Corpus、FLOB Corpus、ICE-GB Corpusなどを用いて研究を行っている。また英語母語話者と非英語母語話者による英語の会話を録音し、話し言葉コーパスを作成するためのデータを構築した。
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Strategy for Future Research Activity |
一年目の研究を引き継ぎ、二年目も前置詞の様々な文法機能、談話機能、直示的機能を記述するとともに、文法化が進んだこれらの機能の出現を動機づける認知的・談話的基盤に関しても研究をおこなう。具体的には、第一に、23年度に大別した前置詞の機能に関するリストを精緻化して、これまで体系的に論じられることがなかった、前置詞の機能に関する網羅的なリストを作成する。第二に、前置詞のこれらの機能を動機づける基盤に注目して、文脈の中で、内容的意味から抽象的意味を介して拡張する前置詞の機能が派生するプロセスを、文法化や意味拡張の観点から考察する。第三に、言語の身体性に注目して、身体的な経験が、前置詞の文法機能の定着に深く関与していることを示す。特に、垂直軸に関する前置詞の対が示す非対称的な振る舞いに注目して、人間の空間認知の仕方と文法の関係性を考察する。第四に、語句の多義性に関する先行研究をまとめ、語彙が持つ意味と機能の連続性を明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は、昨年度に引き続き、英語の前置詞の文法機能と談話機能を考察する。そのため、以下の要件に研究費を用いる予定である。第一に、定着度の低い前置詞の文法機能や談話機能を考察するために必要なコーパスを取得、維持する必要がある。また、文法の認知的基盤に注目した辞書や教材を作成するための資料が必要となある。第二に、本研究の理論的な背景となる、認知言語学、談話・機能言語学の最新の知見を学ぶために、書籍、雑誌を手に入れる必要がある。また、本研究は学際的な視点も兼ね備えているため、言語学の隣接分野に関する書籍も必要となる。第三に、研究に関する情報交換や、人的交流を行うために経費が必要となる。特に、共同研究を進展させるため、京都大学をはじめとした関西の様々な大学の研究者と交流する必要がある。第四に、研究成果を国内外の学会で発表するための旅費が必要となる。第五に、発表資料を作成するためのコピー代やポスターの作成費も必要となる。
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Research Products
(5 results)