2011 Fiscal Year Research-status Report
項削除の獲得に関する認知科学的研究:日英語獲得の比較の観点から
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23720248
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
杉崎 鉱司 三重大学, 人文学部, 准教授 (60362331)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 項削除 / パラメータ / 普遍文法 / 母語獲得 / 生成文法 |
Research Abstract |
日本語と英語を区別する主要な統語的性質の一つに、「項削除」と呼ばれる現象が存在する。「太郎は自分の車を洗った。でも花子は洗わなかった。」という文では、発音に反映されていない目的語は、「太郎の車」とも、「花子自身の車」とも解釈できる。近年の言語理論研究において、後者の解釈は、「自分の車」という名詞句が削除されることにより生じると考えられている。 過去に行われた項削除に関する獲得研究を踏まえ、今年度は、項削除を司る2種類の「制約」を中心的に取り上げ、幼児を対象とした実験調査を実施した。一つ目の制約は、(1)に例示される、「wh語は削除の適用を受けることができない」という制約である。(1b)の文は、「花子は何を洗ったの?」というwh疑問文としての解釈を持つことはできず、「花子は(それを)洗ったの?」という意味のYes/No疑問文としての解釈しか持つことができない。二つ目の制約は、「副詞句のような付加詞は削除の適用を受けることはできない」という制約である。(2b)の文は、「花子は急いで車を洗わなかった」という解釈を持つことはできず、この事実は、「急いで」という付加詞を削除することはできないことを示している。(1)a.太郎は何を洗ったの? b.では、花子は洗ったの?(2)a.太郎は急いで車を洗った。 b.でも花子は車を洗わなかった。 これら2種類の制約それぞれについて、日本語を母語とする幼児約15名(3~5歳児)を対象とした実験調査を計画し、実施した。その結果、いずれの制約に関しても、これらの幼児が大人と同質の知識を持つことが明らかとなった。これらの結果は、項削除およびその制約が、生得的な言語機能を反映した知識であるという理論的仮説に対し、言語獲得からの経験的な支持を与えたという点で非常に重要な発見であると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
以下の点に基づき、当初の計画以上に進展していると考えられる。[1] 項削除の制約を2種類取り上げて調査を実施することができた点。[2] そのうちの一種類(wh語の削除)の研究成果に関しては、すでに国際学会において、専門的な研究者を対象に発表を行うことができた点。[3] この成果に関して、三重大学人文学部公開ゼミにおいて、一般向けに報告・公開することができた点。[4] もう一種類の制約に関する研究成果の一部は、2012年4月21日に行われる国際学会での招待講演において、報告することがすでに決まっている点。
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Strategy for Future Research Activity |
理論的研究においては、日本語において項削除が可能であり、英語においてそれが不可能であるのは、日本語が「かき混ぜ」という操作を持ち、それにより自由語順という性質を併せ持つからであるという提案がなされている。この仮説が正しいためには、日本語を母語とする幼児が手にする言語経験には、自由語順の存在を示す情報が豊富に含まれている必要がある。本年度は、幼児が手にする言語経験の性質に注目し、CHILDESデータベースに含まれている親子の会話データおよび自身が集めている親子の会話データを詳細に分析することにより、上記の理論的仮説の妥当性を検討する。 それに加え、これまでの実験調査によって得られた成果を整理し、理論的考察を加え、国際学会での発表および専門誌への投稿を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
これまでに得られた成果の意義を検討するために、理論的研究に関する文献を購入する。また、それらの成果を国際学会・国内学会において発表するための旅費を使用する。さらに、追実験の実施および発話データの分析に使用するためのソフトウェアおよびパソコン消耗品を購入する。
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