2012 Fiscal Year Annual Research Report
項削除の獲得に関する認知科学的研究:日英語獲得の比較の観点から
Project/Area Number |
23720248
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
杉崎 鉱司 三重大学, 人文学部, 教授 (60362331)
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Keywords | 母語獲得 / 生成文法 / 項削除 |
Research Abstract |
現代言語理論では、母語獲得は、生後取り込まれる言語経験と、生得的な言語機能との相互作用によって達成されると考えられている。過去の理論研究では、この生得的言語機能の一部として、可能な言語間変異の範囲を定めた「パラメータ」が仮定されていたが、近年の理論的枠組みでは、その存在に疑問が投げかけられている。本研究では、日英語の重要な違いである「項削除」の獲得過程を調査し、「パラメータ」の存在に関して母語獲得の観点から検討を加えた。 Otani & Whitman (1991)による研究は、「ゆるい同一解釈」を許容するという観察に基づき、空目的語を含む日本語の文(1)が、英語の文(2)と同じく、動詞句削除によって派生されると主張した。しかしながら、近年の理論的研究により、(2)で削除されているのは名詞句(動詞の「項」)であり、動詞句ではないことが明らかにされている。その根拠の一つは、「英語の動詞句削除と異なり、日本語では、付加詞を削除することができない」という観察である。 (1) 健は自分の弟を雇うだろう。太郎も雇うだろう。 (2) Ken will hire his brother, and Taro will, too. (3) 健は車を丁寧に洗った。しかし、太郎は車を洗わなかった。(≠しかし、太郎は車を丁寧に洗わなかった。) 本研究では、日本語を母語とする幼児が「付加詞は削除できない」という知識を持つか否かを調査した。14名の幼児(平均年齢5歳1か月)を対象とした心理実験の結果は、幼児が、観察しうる最初期から上記の制約に従っていることを明らかにした。本研究の成果は言語機能には「項削除」の言語間変異を司る「パラメータ」が存在し、それが「項削除」の有無とより顕著な性質(「かきまぜ」や「一致」)の有無とを結び付けているという理論的提案に対し、母語獲得からの支持を与えるものである。
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