2011 Fiscal Year Research-status Report
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23720250
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Research Institution | Nara University of Education |
Principal Investigator |
米倉 陽子 奈良教育大学, 教育学部, 准教授 (20403313)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 受動態構文 / 二重目的語構文 / 文法化 / 受益者受動 / 構文化 |
Research Abstract |
二重目的語構文の間接目的語(以下,O1)・直接目的語(以下,02)の受動態主語のなりやすさという言語現象を手がかりに,受動態の文法化と構文機能の発達を分析した。着目したのは,「語彙的意味(動詞の意味)が主導する文法化段階」と「構文的意味が主導する文法化段階」の存在である。本研究では,構文の意味とその構文内に現れる動詞(句)の意味の関係に目配りしながら,受身文の文法化と構文機能的多義の成立について考察を行った。二重目的語構文のO2ではなく,O1が受動化移動の対象となった通時的変化には,能動態文における語順の固定化だけでなく,受動態構文の拡張・スキーマ化が関係しているというのが今年度の研究の最終的な主張である。 英語と同じ西ゲルマン語群に属すドイツ語では、現在でも受益者受動は発達していない。英語史においても,受動文の主語になる可能性があったのは本来,O2である。共時的に見ても,O2を差し置いてO1を二重目的語構文の受動文の主語にしなければならない強力な理由は見当たらない。しかし,英語二重目的語構文の受動化に見られるこのような不自然さは,拡張型受動態へ向かう文法化プロセスの存在を想定すれば説明が可能である。能動態においてNP(REC)-NP(TH)という語順が確定されたとき,動詞の直後に置かれる目的語らしきNPという位置づけは,構文としてスキーマ化が進む拡張型受動態の主語として選ばれるのに十分な資格となりえただろう。 能動態における語順固定は確かに受益者受動の発生に貢献したが,「能動態におけるO1のO2としての再分析」を受益者受動発達のための前提条件とする必要は必ずしもない。受益者受動の発生を考える際には、能動態における語順確定だけでなく,受動態構文のスキーマ化という,受動態の様式そのものに焦点を置いた考察が望ましいと結論づけた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に記入した研究の目的は大きく分けて2つある。(1)動詞と構文は「具体化例とそのスキーマ」関係にある。そして両者の意味に乖離が認められる例こそが,構文の発達過程を探るのに重要な洞察を与えてくれると予測が正しいかどうかを確認する。(2)文法化における動詞の意味と構文の意味の相互関係について考察する。 今年度は(1)を確認するための予備的研究として,ニ重目的語構文の受動化の振る舞いを通時的に概観した。また,その研究成果を2本の学術論文および日本英文学会シンポジウムでの発表という形で公表した。ただし,二重目的語構文をとりうる動詞の中でも未だ受益者受動を許さないものも数多くあり,構文の意味だけで全てを説明できる程には受動態構文の文法化はまだ進んでいない。さらに,そのような動詞の場合でも文脈の支えがあれば受益者受動を許すケースがあり,より包括的な説明が必要である。この点については来年度以降の課題としたい。 以上のように,まだまだ詰めなければならない点は残されているが,3年計画研究の初年度としては比較的順調な進捗度となった。ただし,本来であれば平成23年度は「tough構文,it分裂文,wh疑問文,話題化構文)それぞれの情報構造と二重目的語構文の情報構造を調査し,先行研究の妥当性を検討する」という研究計画であったが,結果的に平成24年度に計画していた「(a) 受動態の文法化・構文化はどのように進んだのか。(b) 二重目的語構文の受け身文の変化はなぜ起きたのか。(c) 二重目的語構文の受け身文の変化から,受動態一般の文法化についてどのようなことが言えるのか。また,両者はどのような関係にあるのか。」に先に着手する形になった。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画2年目の予定を一部,研究1年目の平成23年度に行ったため,研究2年目にあたる平成24年度は本来,研究計画1年目に行うはずだった「tough構文,it分裂文,wh疑問文,話題化構文)それぞれの情報構造と二重目的語構文の情報構造を調査し,先行研究の妥当性を検討する」を中心に研究を進めたい。また,現代英語においても二重目的語構文の受益者受動がどの動詞でも一律に許されているわけではない理由を,「文法化・構文化がどのように段階的に進むのか」という問題に絡めて考察を行う。 研究2年目にはいろいろな構文が絡んでくるため,それらの先行研究を調べることから始めなければならない。現代英語における二重目的語構文の二つの目的語(間接目的語(O1)および間接目的語(O2))については,受動態化と他の移動操作構文(tough構文等)とでは容認される移動対象が異なることが知られている。認知言語学の枠組みでこれらの構文における二重目的語構文(DOC)の移動現象を分析しようとした先行研究の不備な点を洗い出す。ポイントとなるのは,現代英語における上記各構文(tough構文,話題化文,受動態構文等)の情報構造は,DOCのO1, O2の被移動操作可能性を一律に説明できるのかという問題である。一律に説明できないとしたら,どのような説明が代替案として望ましいのかを考える。 また,文法化と構文化がどのように進んでいくのかという問題は,synchronic gradience, diachronic gradualnessにかかわっていると考えられる。この現象について最近,出版された論文集数冊を現在,分析しているので,そこから得られる知見も今年度の研究に活かすつもりである。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記「今後の研究の推進方策」で述べたように,研究計画1年目と研究計画2年目の計画が入れ替わった以外には,当初の研究計画から特に大きな変更点はないと言える。 ただし,前年度に分析を行った二重目的語構文の受動化について,すべての動詞で受益者受動が可能になっているわけではないことを確認したが,その理由の解明については研究2年目の今年度に持ち越している。そのため,前年度使用予定であった予算の一部を研究計画2年目の今年度に繰り越している。
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Research Products
(3 results)