2012 Fiscal Year Research-status Report
英語の史的統語変化に関する生成理論的研究:パラメターモデルの精緻化を目指して
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23720251
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
縄田 裕幸 島根大学, 教育学部, 准教授 (00325036)
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Keywords | 英語史 / 統語論 / 生成文法 / 言語変化 / パラメター |
Research Abstract |
本研究の目的は, 英語の通時的統語変化に関するパラメターモデルの精緻化を行うことである。この目標を達成するため,実証面では電子コーパスおよび文献調査によって用例を収集するとともに,理論面では極小主義理論において通時的パラメター変化をどのように扱うべきかを考察する。 24年度は,23年度の理論的研究により提案された「素性継承パラメター」を2つの事例に対して適用した。ひとつは,英語史におけるthat痕跡効果の出現である(『言語変化:動機とメカニズム』開拓社, pp. 121-136)。この論考では,that痕跡効果の出現とV-to-T移動の消失が連動していたことを指摘し,Rizzi(1997)による分裂CP構造と本研究で提案した素性継承のパラメター変化に基づいて,一致を担うファイ素性(phi-featurs)が節の定性を表すFin主要部から時制を表すT主要部へと推移したことによって,これら2つの変化がともに生じたと主張した。 第二に, 英語史における「空主語(pro)」の消失を取り上げ,同じく素性継承パラメターによって分析を行った(『島根大学教育学部紀要』第46巻,pp. 101-110)。この研究では史的コーパスを用いて中英語におけるproの使用実態を調査し,proの消失が「談話階層型言語から主語卓立型言語へ」という英語の大域的変化と連動していたことを明らかにした。その上で,proの出現に関する通時的な変化は,数の一致を表す動詞屈折接辞の衰退によって,解釈不可能な数素性がTop主要部からFin主要部へと推移したことによってもたらされたと主張した。 第一の事例は後期中英語から初期近代英語にかけての変化であり,第二の事例は初期中英語から後期中英語にかけての事例である。よって本研究で提案する「素性継承パラメター」により,英語史の広範な変化を捉えることができることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の全体的目的は英語の通時的統語変化に関するパラメターモデルの精緻化であり,その目標の達成のため24年度は「コーパスの分析による事実の発掘と理論的分析による仮説の構築・検証を行う時期」と位置づけられていた。当初の予定では,分析対象となる事例として「奇態格主語の消失」「法助動詞の文法化」「顕在的動詞移動の消失」を想定していたが,23年度の理論的研究により「素性継承パラメター」の可能性を追求することが本研究の目的にとって有望であることが判明した。そのため,24年度は分析対象として「that痕跡効果の出現」と「空主語の消失」を新たに取り上げて,史的コーパスを用いた事実の発掘と理論的分析による仮説の構築・検証を行い,一定の成果を上げることができた。分析対象こそ当初予定と異なったが,結果的に研究計画に定められた24年度の目標を達成することができたので,本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画では,25年度は「英語の通時的統語変化に関する精緻化されたパラメターモデルを具体的に提案するとともに,得られた結論の妥当性を経験的・理論的に検証する」時期として位置づけられている。経験的側面としては, 本研究で提案する「素性継承パラメター」が通時的変化ばかりでなく共時的言語変異をも説明できるかどうかを検証するとともに,理論的には,提案の内容を「強い極小主義のテーゼ」に照らして妥当なものかどうかを考察したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
24年度予算のうち25年度に繰り越す差額が生じたのは,分析対象とする事例を一部変更したことにより,25年度に新たにコーパスを構築する必要性が予測されたためである。繰越予算を有効に活用して信頼性の高いコーパスを作成し,課題を推進していきたい。25年度の研究費使用計画は以下の通りである。 物品費:パーソナルコンピュータおよび理論言語学関連図書/旅費:成果発表旅費(東京・ロンドン)/謝金等:英文校正費/その他:印刷複写費
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Research Products
(2 results)